帰り道
「じゃあ私、帰ります。ご心配なく。タクシー捕まえますから」
女が席を立つのを止めた。
「待って。せめてこれだけでも一緒に食べてくれないか?ひとりじゃかっこつかないから」
女は、席に戻ると、スプーンを持った。
「キミのも食べていいかな?」
「あ、どうぞ」
男は、自分の器を少し女のほうへ寄せ、女の器からひとさじ食べた。
女もひと口分、貰った。
一度が、二度、三度……
「貰ってくれないか?この指環。もちろん失礼なのはわかってるよ」
「………」
「でも、すぐにキミの為に買ってあげられないんだ。貧乏で…ははは」
「………」
「どうしたの?やっぱり駄目だよね」
「…しょっぱい…これ…」
男が目を上げると口元にクリームをつけたまま、頬まで濡らしてる女の顔がそこにあった。
男は、差し出した指で女の頬を拭った。
「ほんとだ、しょっぱい」
その指を舐めながら言った。
半分、立ち上がりながら、男は顔を女に近づけた。
「うん、甘い」
女の口元のクリームを舐めたのだ。
「あ、今のは違うからね。ファーストはこれから…だから」
帰り道の拾い物は、大切なものかもしれない。
その後?
知りたい?
もう残業の時間は終わり。
− 了 −