帰り道
バッグを開け、ごそごそ何かを出し、握り込んだ拳を男に差し出した。
掌を差し出し、受けた。
「あ…」
男の掌に蒼い石のはまったプラチナの指環が光った。
「これ…私受け取れません」
男の記憶が音を立てるほど早く撒き戻っていく。
「あの日……か…」
指環の乗った掌をテーブルの上に置いたまま、男の首がへし折れるようにうな垂れた。
付き合っていた女性に、プロポーズの言葉に添えて差し出した指環。
冷たい言葉とともに、つき返された指輪。
飲んだ。
椅子の背に引っ掛け、スーツのボタンが飛んだのもわからないほどに飲んだあの日。
翌日の頭痛の目覚めのときには指環は消えていた。
思い出せない不快感と忘れてしまったあっさり感と……。
やっぱり半日頭痛で苦しんだ二日酔い。
それなのに 今は鮮明に甦ってきた。