アイラブ桐生 第4部 最終回
「急なこととて、、なんもでけしまへんが、
お稽古のときからつこうとる、
『おちょぼ』の頃からの大切な舞扇どす。
これしか用意がでけしません。
小春ねえはんからもろうたもんどすが、
祇園の思い出に、どうぞこれを春玉だと思って、
お持ちくだはい。」
「おう、色男、もらっていけ!」
源平さんと順平さんが、路地から現れました。
後方の暗がりの中から、肩で息をしているお千代さんも現れました。
「すんでのところで、
お前さんと一足違いになるところだった。
とっておきの吉報がある。
お前さんにも大いに関係がある話だ。
その前に、まずはこの順平から小春に、
ちゃんと言っておく必要がある。
悪い話じゃねえ。悪いがそのままで、
ちょいとだけ待て。」
そう言うと源平さんが、
小春姉さんを手招きしています。
歩み寄った小春姉さんの背中を押して、今度はそのまま、
ぐいとばかりに、順平さんの前へ押しやりました。
早く言えとばかりに源平さんが、眼で
順平さんをせかしています。
順平さんが一つ咳払いをしました。
間合いを詰め、耳を貸せというそぶりを見せてから、
小春さんに、なにやらを囁やきました・・・・
えっ、と、一度顔を離した小春姐さんが、「よう聞こえまへん」と、
再び小耳を近づけています。
順平さん、事ここに至って、ようやく覚悟を決めたようです。
片手でしっかりと小春姐さんの肩を抱き寄せ、周囲に聞かれないように、
口元を手で隠しながらまた何やらを、ささやき始めます。
小春姐さんの顔が、ぱっと明るく晴れました!
源平さんは腕組みをしたまま、
お千代さんと仲良く寄り添って立っています。
春玉はあっけにとられたまま、何があったのかと、
ただただ茫然としていました。
繰り返し、順平さんと小春姉さんの顔を交互に見つめています。
作品名:アイラブ桐生 第4部 最終回 作家名:落合順平