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アイラブ桐生 第4部 最終回

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 冬も真近いために、
表に出るともう日暮れの気配が濃厚でした。
三条から木屋町通りを横切ると、高瀬川へさしかかります。
この辺で、いつもスケッチをしていて、お千代さんとも
ここで初めて出会いました。
声をかけてもらったのも、柳がそよぐこの処です。
いつも通りに角を曲がり、路地を伝って源平さんの家を訪ねました。
お千代さんだけが家に居て、そのうちあいつも戻るだろうから、
少し上がれと粘られます。



 「その様子では見つかりましたね。
 ぼうやの探し物」


 顔に書いてありますと、
お千代さんは大きな声で笑っています。
昨夜、ぐでんぐでんで帰ってきた源平さんは、
今日こそは決着をつけると息まいて
朝早くからまた、順平さんの処へ出かけたといいます。


 「まったくもって、のん兵衛どものやることは、
 あたしにはようわかりまへん。
 男女のことやし、二人のことどす。、
 二人に任せておけばええのんのに・・・
 世話やきやから、今日も朝から鉄砲玉のように飛び出たきりで、
 もう日暮れだというのに、いまだに、
 帰ってきはりません」


 すでに、とっぷりと日は暮れました。
師走が近いこの時期は、あっというまに街中にも
帳(とばり)がおりてきます。
石畳に水が打たれて、ネオンにも灯がともりると、
またいつものようになまめく大人の祇園の夜が始まります。
列車の時間が迫ってきたので、そろそろ
失礼をする時間になりました。



 「すこしだけやけど、あたしも寂しいなる。
 それにしても突然すぎて、
 これでは春ちゃんと、お別れもできませんえ。
 少しだけでも、祇園を歩いてお別れをしてくださいな。
 おそらく、春ちゃんとは会えないでしょうが、
 名残を惜しむのもいいし、
 見納めということも、あるでしょう。
 じゃァね、気をつけていくんだよ。元気でね、ぼうや・・・・
 ここでさよならだ。」



 戸口に立ったお千代さんに
見送られて、もう一度高瀬川を渡りました。
突き当たりを南に向かって下れば、先斗町へ続きます。
思えば此処は、2年あまりにわたって舞妓と芸の世界の厳しさを
かいま見せてくれた、生まれて初めての花柳界です。
お千代さんに勧められた通り少しゆっくりと歩きながら、自分なりに
名残を惜しむつもりでいました。

 もう一度、角を曲がると見慣れた町屋と、
黒塀に格子造りのお茶屋さんが並ぶ、祇園の往来へ出ました。

 南に向かって歩きます。
お千代さんが娘の結婚のための名演出をした、
老舗のお茶屋さん「小桃」の黒塀が見えてきました。
カラりと黒塀のくぐり戸が開いて、芸妓さんが顔をのぞかせました。
ちょうどの出会いがしらです・・・・
出てきたのは、小春姐さんです。



 「よろしおした、まにおうて。
 たったいまお千代はんから、
 電話をもろうたばかりどす」


 引きとめるような形で、
小春姐さんが私の前に立ちふさがりました。
その目が、もどかしそうに黒塀のくぐり戸を見つめています。
やがて、舞妓の正装をした春玉が現れました。
何も言わずに、にこやかに春玉が近づいてきました。
軽く頭を下げてから、胸元から大事そうに、
一本の舞扇を取り出しました。