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アイラブ桐生 第4部 54~55

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 春玉と出かけるときの
大きな帽子は、すっかりと必需品になりました。
小春姐さんも愛用したと言う、いわれの深い魔法の帽子です。
舞妓の肌を日焼けから守り、顔かくして人目も忍び、
そのうえ涙も隠してくれました。
舞妓の日本髪「われしのぶ」も、らくらくと覆ってくれます。



 舞妓の期間中は、自分の髪で日本髪を結います。
出たての頃が「われしのぶ」という髪型です。
1~2年もすると「おふく」に変わり、少しふっくりとした
日本髪になります。
髪を切り鬘(かつら)が使えるようになるのは、舞妓を卒業して
無事に芸妓になってからのことです。



 この頃は春玉とでかけるたびに、
いつでも大きなツバを持った、この魔法の帽子がついて回ります。


 「板前はんになるんどすか」


 今日は久し振りに、
鞍馬の山中にある川床へ向かっています。
加茂川に造られている川床は見た目には、たいへんに優雅そのものですが、
舞妓にはすこぶる過酷な環境になります。
地毛で結った日本髪は一週間ちかくも洗えません。

 そのうえ白粉を用いたお化粧と着飾った着物姿では暑すぎて、
とても一時間どころか30分ですら、川床の暑さに我慢ができません。
祇園で、舞妓を加茂川の川床に誘う野暮だけはいけませんと、
『ここだけの話どす。内緒どす・・・』と、
春玉がにこやかに笑っています。




 山合いの鞍馬は市内より
5度近くも涼しく、水面も手を出せば届くほどに真近です。
この夏のデートは、ほとんどがこの鞍馬の山中で過ごしました。
川床の女将さんとも、すっかり顔なじみです。
それとなく、
人目を引かない場所に席をつくってくれるようになりました。
長年ここで仕事をしていると、普段の顔を造られて花街のお方が
お見えになられても、どことなく、白粉の匂いなどで、
それとなく解りますと、優しく笑っています。


 東男に京女は似合いどす、
あんじょういくとよろしおす・・・・
と、お茶だけを出して、早々に下がっていきます。