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アイラブ桐生 第4部 54~55

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 和食の揚げ物といえば、天ぷらです
一見すると簡単なようですが、実は奥が深く、高度な技術と
修練を必要とする世界です。
シンプルなだけに、ごまかしのきかない調理法です
寿司の世界と双肩をなす、和食の粋と優美を競う調理の世界です。



 蕎麦屋で揚げる衣がたっぷりついたエビのてんぷらから
薄い衣で、「旬」の高級食材を揚げる天ぷら専門店まで、
用途もお店も多岐ににわたります
また使う食材も野菜から魚介類まで、多種多彩に
わたることがその特徴です。



 最近の一般家庭では、
高度に精製されたサラダ油がほとんどです。
しかしつい最近までは、天ぷら油と言えば、植物から採取をした、
ナタネや、ゴマ、ベニバナ、つばきなどが使われていました。
独特の(天ぷらの)味と匂いは、ある意味ではこの不純物が残された
植物特有の性質によるものです。
実は(こうした植物たちの)この独特の香りこそ、
天ぷら特有の隠し味です。

 いまでも天ぷら専門店では、
独自にブレンドをした植物油を用いています。
一般家庭の天ぷらが一味たりないのは、
実はこうした理由によるのです。


 順平さんのお店で
天ぷら修業が始まってもう、かれこれ4か月が経ちました。
多忙を極めた春の「都をどり」から、すでに夏を越えて、
祇園には、秋の温習会の時期が近づいてきました。



 温習会は、10月1日から、
6日間にわたっておこなわれます。
1日1公演と控えめですが、2時間にわたる舞台で、
(都をどりは、1公演1時間)すこし出演者にはハードな
内容の舞台になります。
華やかでお祭のような都をどりとは異なり、
日ごろのお稽古の成果を披露するのが温習会です。
都をどりに出なかった大きいお姉さんたちも出演するという、
緊張感のある舞台です。



 お客さんも、祇園関係者や、舞踊関係者が中心で、
いずれも舞いには目の肥えた人たちばかりが集まります。
準備に余念がない春玉の緊張も、いつしか
絶頂期にさしかかってきました

「扇をおとしたらどないひよ」
それが近頃のおちょぼのすっかりの口癖です。



 最近では開店前の仕込みと、
使う材料の下ごしらえを任されるようにもなりました。
関東では江戸前の魚介類が天ぷらの主役を務めますが京都では、
魚介と共に多彩な京野菜もその存在感をしめします。


 京丹波産の大しめじ、鹿ヶ谷南京、
伏見トウガラシ、近江蕪、金時ニンジン、くわい、などなど、
京都の旬の野菜たちは、どれも鮮度充分で
その品質も厳選されたものばかりです。
加えて、瀬戸内海産のクルマエビをはじめ、アナゴ、淡路産のキスと
雲丹(うに)、天草産の文甲イカ、北海道産の貝柱と、
全国からの選りすぐりが集まります。



 揚げる油も、高級な「綿実油」と
最高級の「太白胡麻油」を独自にブレンドをして使っています
精製度が高くあっさりしていて胸やけをしない「綿実油」と、
優美な香りと深いコクが魅力の「太白胡麻油」の取り合わせです。
「これで旨くなけりゃ、ペテン師だ」と嫉妬するほどの、
最善最強といえる布陣です。
京都の天ぷらが高価で、美味しい秘密はここにあります。