アイラブ桐生 第4部 54~55
それにこの期間は、お客さんも多いし
舞台が終わってからのお座敷も普段よりか多いんどす。
「をどり期間中は髪結いさんも混みあいますさかいに、
早朝からちゅうこともあんのどす。
ひと月間、髪結いさんも休みなしで大変どすなぁ・・・・
こうした裏方さんの働きもあって花街が成り立って行けるんどすけどね。
今年やって来た仕込みちゃんらにとっても、
このをどりが最初の試練の場となんのどす。
毎日楽屋にお姉さん方のお手伝いにやらされたら、
そらその忙しさにびっくりして、
中にはこんなこととてもやないけど続けられへん、
て辞めて行く子も出てまいります。
まぁ、をどりが済んで、明けのお休みから帰って来た子はその後も続く
可能性が高おすけどね。
「ちょっとそこの仕込みさん。
あんたのことや。
この荷物うっとこの屋形まで持って行ってんか」
「あの~、屋形てどこの、、、」
「え、あんたうちの名前知らへんのか。
ほんまにどこの子え」
「すんまへん姉さん、、、」
自分とこのお姉さんでもない芸妓はんから
用事を云いつけられても、断る訳にも行かしまへん。
取り敢ずそこにいてたら何なと用事いいつけられます。
この時季、歌舞練場近くを走り回ってるお下げ髪の子は、
たいてい仕込みさんどす。
そんなきついとこなんどすけど、楽しいこともあんのどす。
ちゅうのも普段はあんまり顔合わすことのない同期の
仕込みちゃん同士が集まって、いろんなことを話出来るちゅうのんは
楽しみのひとつどす。
悩みもおんなじ境遇やから話し合えんのどす。
この頃仲良うなった子とは将来、同期の舞妓として他とは違う
親しい付合になっていくのんどす、
いわゆる戦友みたいなもんどすな。
それに楽屋にいてると、お姉さん方に届けられた差し入れの
おこぼれに預かることもありますし、
これも楽しみの一つどす。
・・・小春姉さんと春玉のおかあさんの(内緒の)独り言です。
祇園も芸妓も舞妓も、それを取り巻く人々も、実に大変な世界です
そのごく一端を(現場から実況で)お伝えしました・・・・(笑)
作品名:アイラブ桐生 第4部 54~55 作家名:落合順平