最後の魔法使い 第四章 『地の魔法、火の魔法』
「地の神、森の神、
…我、地の民なり…」
「…災いをもたらした、
この者に罰を与えんがため、
この者の血と代償に、
…我に力を与えたもう」
家がみしみしとなったような気がしたが、アレンは構わず続けた。久しぶりに読む古代魔法に、アレンはわくわくしていたのだ。
「地の神よ、
大地はただひとつ、
地の民が守らんことを」
本棚に置いてあった小瓶がカタカタと揺れ始めた。
「森の神よ、
大地に根を張るは、古代の木々のみであらんことを…」
家鳴りが一層ひどくなり、いくつか小瓶が床に落ちて音を立てて割れた。
「我、ここに誓いを立て
この者に、沈黙を与―」
「はい、そこまで。」
アレンの後ろで、ジュダの声がした。びっくりしたアレンは、思わず本を床に落としてしまった。さっきまでの音は止んでいた。
「『沈黙の木』か。ずいぶん物騒な呪文を見つけたな。」
「す、すみません。」アレンは本を拾うと、すぐに本棚にしまった。
ジュダははははと笑った。「いや、いいんだけど、この家はアシャールの木材でできているんだ。危うく私かディディーが絞め殺されるところだったね。あぶない、あぶない。」
「はぁ、一応区切ったりはしたんですけど…。」
「古代魔法は強力だからね。時に『沈黙の木』は戦場で使うように作られたんだから、ちょっとやそっとリズムを狂わすだけじゃダメなんだよ。」
アレンはなんだかばつの悪い思いをした。ジュダはマントと帽子を脱いで、コートラックにそれらをかけた。
「それにしてもずいぶん早く起きているんだね。」不思議そうにジュダが言った。
「自然に目が覚めちゃって・・・。」アレンが答えた。「ジュダさんこそ、どこかに出かけていたんですか?」
「まぁね。よく眠れなかったから、ちょっとそのあたりを散歩してきたんだ。」ジュダはあくびをした。「昨日はすまないね。いろいろ思い出すから、あの本を読むのは疲れるんだ。また朝食を食べてから話そうか。」
「はい。」
アレンがそう答えたのを聞いて、ジュダは満足そうにうなずいた。
「ストーブに火をつけてくれるかい?リカーを用意するから。」ジュダは台所に向かいながら言った。「…もちろん、マッチを使ってね。」
作品名:最後の魔法使い 第四章 『地の魔法、火の魔法』 作家名:らりー