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『喧嘩百景』第5話日栄一賀VS銀狐2

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 二人は一賀を庇って、その角材やら鉄パイプやらを受け止めると、全く同じ動作で手前の男たちを蹴り飛ばした。
 跳ね飛ばされた男たちが後ろの連中を薙ぎ倒す。
 三人を囲む輪は一気に広げられた。
 裕紀と浩己は囲みを外へ外へと崩していった。
 大乱闘が始まる。
 一賀は二人の動きを目で追った。
 薄暗い中で二人の銀髪はよく目立つ。二人同時に追うのもさして難しくはなかった。
 息のあった二人の動きには無駄がない。彼らは一人一人別々に戦っているようでいて、必ず互いがフォローし合っていた。多勢に無勢と高を括っていた連中は、自分たちの方が一対二でいたぶられているように感じていることだろう。二人は決して一人で一人を相手にすることがなかった。目の前いる相手に蹴りを入れたついでに相方の背後を狙う男の足を払う。立ち上がりかけた男の身体の上にもう一方が別の男を放り投げる。
 浩己の前に立ちはだかった男に裕紀が背中から蹴りを喰らわすと、浩己は身を屈めてすっ飛んできた男をすくい上げ後ろへ投げ飛ばす。そこには鉄パイプを構えた男が立っていて、あえなく投げ飛ばされた男の下敷きになる。
 翻弄される男たちの様子は見ていて滑稽なほどだった。
 だが。
 「手加減ばかりしてるといつまでたっても終わらないだろ」
 一賀は二人に声を掛けた。――全く頭が悪い。
 二人は確かに強いかもしれない。しかし、まだ、一人として逃げ出す者も倒れたままになっている者もいない。これではいつまでたっても勢力差は変わらないではないか。
 一賀はゆらりと立ち上がった。
 一番近くにいた男が「ひいっ」と悲鳴を上げて後ずさる。
 浩己はそちらへ目をやった。
 一賀が一歩踏み出すだけで男たちはみな慌てて道を開けている。
 死に損ないの半病人だという情報も、これまでの経験で身体に染み付いた恐怖を払拭しきれないでいるのだ。反射的に逃げ腰になる。
 「バカ野郎。そいつからやっちまえ」
 リーダー格の男に叱咤されてようやく我に返る。
 「くたばりやがれっ」
 一賀の周りにいた男たちは三人ほどでめくばせし合うと一斉に一賀に襲いかかった。
 「やめろっ」
 裕紀と浩己は辛うじてそのうちの二人を「助ける」ことができた。
 一人に足払いをかけもう一人を殴り倒す。
 あとの一人は間に合わなかった。