『喧嘩百景』第5話日栄一賀VS銀狐2
裕紀は一賀の手から男を引き剥がし、血塗れの手を三角巾で拭ってやった。
「何だ、お前たち」
曼陀羅の面々は、日本人ではない二人の登場に面食らったものの、二人が日本語を話しているのを聞くと気を取り直して凄んで見せた。
「一高か?」
「一中の相原だ。この喧嘩、俺たちが肩代わりする」
裕紀は一賀の手からバットも取り上げて投げ捨てた。
「一中だと?」
「中学…生…か」
男たちの間からどよめきが起こる。百七十センチはあろうかという外国人の双子はとても中学生には見えなかった。だが、身体は大きくても、華奢で、モデルか何かのように綺麗な顔立ちで、二人とも片腕を骨折しているらしくギプスを入れていた。
「その怪我はどうした、日栄にやられたのか?――ははん。そうか。お前たちか、一昨日そいつの息の根を止めたのは」
男たちは二高の学生から、その噂を聞いていた。
「うるさい」
浩己は男たちに背中を向けたまま一賀の肩を掴んでベンチに座らせた。
「あんたはここで大人しくしてろ」
――命の消えていく感触がどんなに気持ちの悪いものか――。
微弱ながらも精神感応力(テレパシー)を持っている彼らにとって、それはもう二度と味わいたくないものだった。
「この日栄一賀に関わる喧嘩は、今後一切俺たちが請け負う」
二人は一賀の両脇に仁王立ちになった。
「バカ?」
一賀がぽつりと呟く。
「あんたにも言っておく。二度と俺たちの前で息を止めるような真似はするな」
浩己の言葉に一賀は肩を竦めた。
――昨日今日会ったばかりの奴に何で俺がそこまで言われなきゃいけない。他人のことなど放っておけばいいだろう。
「物好きなクソガキ共だな。この辺りでそいつに恨みを持っている奴がどのくらいいると思ってやがる」
「痛い目見るだけじゃ済まねえぞ」
男たちは口々に言うと得物を振り上げ輪を縮めた。
相手が二人増えたとはいえ、片手ずつの怪我人だ。日栄一賀を倒したとは聞いているが、それは奴が踊る人形(ダンシングドール)と一戦やらかした後で、喘息の発作を起こしているときだ。数では圧倒的にこちらが有利――。怖るるに足らず。
男たちは近い者から一斉に二人に襲いかかった。
作品名:『喧嘩百景』第5話日栄一賀VS銀狐2 作家名:井沢さと