『喧嘩百景』第5話日栄一賀VS銀狐2
二高躍る人形(ダンシングドール)が壊滅と引き替えに明らかにした事実だ。
男は若い連中に顎をしゃくった。
金属バットを持った目つきの悪いのが、脚を引きずりながら一賀の前に進み出る。
「日栄、俺ぁお前に靱帯切られて今でもこの様だ。借りは返させてもらうぜ」
男はバットを肩に担いでとんとんと弾ませた。
「懲りないんだな」
一賀がせせら笑う。
男はバットを一賀の腹目掛けて振り下ろした。
死に損ないが。思い知らせてやる。
が――。
二日前、一度は死んでいたはずのパジャマ姿の華奢な少年は、男が怒りにまかせて振り下ろしたそのバットを易々と受け止めた。
そればかりではない。そのバットを引いて男を引き寄せると喉に掴みかかった。
爪が皮膚を裂き喉に食い込む。
血が一賀の白い手首を伝った。
「…ひっ…あ……助けて……」
――殺される――。男の目に涙が浮かぶ。
他の者も思わず息を呑んだ。
彼らとて一賀を生かしておかないつもりではあった。しかし、本当にそんなに簡単に人の命を奪えるものだろうか。彼らとて死には――それが他人の死でも――恐怖を抱いているのだ。決して気分のいいものではあり得ないからだ。
それを日栄一賀(こいつ)は――。
「最強最悪」――一賀がそう呼ばれ続けた理由を彼ら一同は再認識したのだった。
「てめぇ!!」
目の前にいた男が二人、金属バットで一賀に殴りかかる。
両手の塞がっている一賀の頭上に二本のバットが襲いかかった。
がつ。
目を瞑って凶器を振り下ろした男たちは、確かな手応えに恐る恐る目を開けた。
黒い腕の影に白いものが見える。
?
二人の男が振り下ろした金属バットは、学生服を着た銀髪の双子によって受け止められていた。二人とも左腕を三角巾で吊している。
「あんた、何やってんだ」
双子の片方、相原裕紀(あいはらひろのり)は男を蹴り飛ばし、一賀の手を掴んだ。
「病院抜け出すなんて、俺たちに恨みでもあるのか」
もう一人の浩己(ひろき)も男に蹴りを入れて一賀を振り返った。
一賀はきょとんとした顔で見覚えのある二人を見上げた。
二日前彼の息を止めた外国人の双子。
「お前たち、よくここが分かったな」
「探したに決まってるだろ」
作品名:『喧嘩百景』第5話日栄一賀VS銀狐2 作家名:井沢さと