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『喧嘩百景』第5話日栄一賀VS銀狐2

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 へっへっへ、と男は馬鹿にしたように笑った。
「日栄、お前も終(しま)いだな。こんなガキ共にも言うこと聞かせられねぇたぁな」
 男が手を振ると二人は一賀を引きずるようにして車へ連れ込んだ。
 ――ホントだ。昨日まで中学生で俺に近付こうとする奴なんかいもしなかったのに。
 彼の相手になるのは大抵高校生だった。高校生でも一人や二人で彼に向かってくる者などいなくなっていた。
 狭い後部座席に三人が収まると、車やバイクのエンジンが一斉に始動された。消音器を切ってあるらしく耳を劈くような爆音が夜の住宅街に響き渡る。
 車高を落とした車は、飛び跳ねるようにコンビニエンスストアの駐車場を後にした。

★          ★

 車は、山手にある運動公園の競技場の駐車場で止まった。
 男たちは一賀を車から引きずり出すと、競技場に連れ込んだ。
 「お前がいなくなりゃあ、一高龍騎兵(ドラグーン)も戦力半減だ。俺たち曼陀羅(まだら)が後は仕切らせてもらうぜ」
 一賀をサッカーグラウンド脇のベンチに座らせた男たちは、手に手に鉄パイプやら金属バットやらを持って周囲を取り囲んだ。
 この近在には公立の高校が三つある。暴走族グループもその縄張りも、その校区に合わせて三つに分かれていた。市の中心部にある第一高校の龍騎兵(ドラグーン)、海手にある第二高校の躍る人形(ダンシングドール)、山手にある第三高校の曼陀羅(まだら)の三つである。
 三つの勢力はほぼ均衡していたが、日栄一賀をその校区内に抱える龍騎兵(ドラグーン)が若干突出していると言えた。一賀自身はどの勢力にも属していないつもりだったが、その縄張りの関係上、龍騎兵(ドラグーン)だけが彼を擁護していた。
 「ここいらでお前に病院送りにされた奴が何十人いると思うよ」
 一賀はベンチにもたれ掛かって目を細めた。
 ――バカの数なんか知るものか。
 「そいつらの分、きっちりその身体に返してやる。全部返し終わるまではくたばるんじゃねえぞ」
 男は残忍な笑みを浮かべた。
 日栄一賀の最強伝説はすでに崩れ去っていた。彼の強さが身体を庇ってのものであったのだということは今や皆の知るところとなった。
 長引く乱闘には耐えられない上、打たれ弱い。