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『喧嘩百景』第5話日栄一賀VS銀狐2

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   日栄一賀VS銀狐 2

 「日栄(ひさかえ)、死に損なったってなぁ」
 病院から百メートルほど離れたコンビニエンスストアで、パジャマ姿の彼――日栄一賀(いちが)は、数人の男たちに取り囲まれた。
 学生服だが校章も名札も付けてはいない。見たところ高校生のようだった。
 一賀は知らん顔で男たちの間をすり抜けた。
 彼は二日ほど前に喘息の発作による呼吸困難から心停止を起こして入院していた。すぐに蘇生したので大事には至らなかったが、本来ならまだ、病室で安静にしていなければならないはずだった。
 「二高の奴ら、お前の息の根止められなかったって悔しがってたぜ」
 男たちはレジで金を払う一賀の後ろにぞろぞろと付いて回った。
 「目障りだ。俺に近付くな」
 一賀は振り返りもせずにそう言い放つと店を出た。
 「可愛い顔して言うじゃねぇか。今夜限りでその顔ともお別れかと思うと寂しいなぁ」
 店の外にはいつの間に集まったのか、十台ほどのバイクと数台の車、十数人の男たちがたむろしていた。
 一台の車の後部座席のドアが開いている。
 乗れということらしかった。
 ――この前死んでた方が綺麗な死に方だったのに。
 一賀は思った。今の体調ではここにいる全員を叩きのめすまで身体が保たないかもしれない。――せっかく綺麗に生んでもらったのに申し訳ないなぁ。
 「楽には逝かせないから覚悟しておけ」
 リーダー格の男はポケットから煙草を取り出しながら、ちらりと目で合図を送った。
 若い――おそらく中学生の小僧だろうが、二人が、びくびくしながら一賀の両腕に取り付いた。
 一賀の身体に触れた者はこれまで一人の例外なく次の瞬間には病院送りにされている。「最強最悪」――その悪名は校区を跨いで近隣の不良たちの間には知れ渡っていた。まだ顔に幼さの残る暴走族予備軍の二人は、一賀の腕を取ると抵抗されないよう身体全体でしがみついた。
 「やけに大人しいじゃないか、お前らしくもない」
 男は煙草に火を付けると勢いよく吸い込み、ふうーっと煙を一賀に吹きかけた。
 「鬱陶しい。離れろ」
 一賀が露骨にイヤな顔をして両脇の二人を睨み付けると、二人はびびりあがってがたがたと震えた。それでも恐らく死んでも放すなと言われているのだろう、一賀の腕を放そうとはしない。