「哀の川」 第三十四話
佐伯の両親は亡くなっていてもういない。兄が居たが、色んな事情で今は連絡すら取っていなかった。六甲ホテルでのパーティーには、佐伯家側からは、本人一人だけになった。佐伯の寂しさは、杏子が一番知っていたから、そのことには触れずに、パーティーは進めていった。
テーブルには直樹と麻子、純一の三人。両親の二人。本人を入れて9人で始まった。
いつも強気で何でも話していた杏子が今日はおとなしくしている。堅苦しい挨拶は抜きにしようと言っていたが、一応出席者を代表して、直樹が挨拶をすることになった。直樹が立って皆を見渡すようにした時点で、杏子はうつむいて泣き出してしまった。今までのことが次から次へと頭の中に思い出されて耐え切れなくなってしまったのだ。直樹はそれが解るように、自分も気持ちを堪えながら、話し始めた。
作品名:「哀の川」 第三十四話 作家名:てっしゅう