【無幻真天楼 第十二回・弐】ハリスのハリセン
ブゥー…ン…
夏の太陽の下立ち尽くす二人の横を一台の乗用車が通り過ぎ阿部のスカートが靡いた
「…だって…だってねアタシ…」
握り締めた阿部の手が微かに震えている
京助はただ黙って阿部の言葉を待っている
『だってねアタシ』の言葉から数分が過ぎた
「だってなんだよ」
暑さでイライラしながら京助が阿部に聞く
「アタシ…っ!!!」
「スンマセン」
阿部の声と誰かの声が重なり京助ふりむいた
「…お…おおおおお!!?;」
京助が数歩後ずさって声を上げる
「が…ガイジン!!; おい!! ガイジンだガイジン!!! スーパーのガイジン!!」
京助が阿部と【ガイジン】を交互に見て言う
「ッ…みりゃわかるわよッ!!!!;」
スパンッ!!!
阿部が赤い顔で怒鳴りながら京助の頭を叩いた
ひょこっと茶の間をのぞいた悠助と片づけをしていた緊那羅の目が合った
「悠助?」
緊那羅が声をかける
「…京助は?」
チラッと部屋の中を見た悠助が聞く
「えっと…ここにはいないっちゃけど…」
緊那羅が部屋の中を見て言う
「…うん」
悠助が小さくうなずき廊下をきょろきょろと見た
「さっき阿部さんを玄関まで送っていったってことはわかってるんだっちゃけど…って悠助?;」
緊那羅の言葉が終わるか終わらないかというタイミングで悠助が廊下を玄関に向かって走る足音が聞こえた
「…いったい…何があったんだっちゃ…悠助…」
緊那羅が片付けていたコップの中の氷がカランと音を立てた
作品名:【無幻真天楼 第十二回・弐】ハリスのハリセン 作家名:島原あゆむ