【無幻真天楼 第十二回・弐】ハリスのハリセン
「わーか」
「んみゃー…」
ふにっとした感触の桜色の肉球が坂田の頬に触れた
「お土産もっていかないんですか? 京助君のところに」
顔を上げた坂田を上から覗き込むようにして柴田が笑った
「…お前は…;」
「んみー…」
柴田からニャロメを奪って坂田がソファーから立ち上がった
「夏休みはいってから…京助君だけじゃなく南君や中島君にもあってないでしょ」
ソファーの背もたれに肘を着いて柴田が言うとむすっとした顔で坂田が柴田を睨んだ
「…どうやって…どうやってどんな顔してあえっつーんだよ…あんなことあって…どうすりゃいいかわかんねぇ…の」
「意外と繊細だったんですね若」
俯きながら言った坂田に柴田がハハッと笑いながら言った
「お前は…ッ!! …お前は…お前…」
「俺は柴田勝美ですよ若…若の前ではね」
柴田が腰を伸ばして立ち上がり坂田の頭に手を置いた
「…でもじょうしょーとかいう…名前なんだろ? 本当は」
「清浄ですよ; …その名前…若には呼んでほしくないんですけどね…言ったでしょう? 若の前では柴田勝美だって」
「でも!!」
バッと坂田が顔を上げるとその顔は眉の下がり泣きそうな顔になっている
「…お前は…緊那羅にあんな怪我させられて…どんな顔して緊那羅にあうんだ…?」
しばらく間を開けて坂田が小さく聞いた
「こんな顔ですけど」
柴田がにっこり笑った自分の顔を指差した
「ふざけてンのか…? 自分に怪我させたヤツに笑顔…」
「やだなぁ…やられたらやり返すのが男の喧嘩の基本でしょう? …緊那羅君…操君は昔俺がやったことに対してやり返しただけですよ」
くしゃくしゃと坂田の髪を撫で回しながら柴田が言う
「でも!! すげぇ血がでてたんだぞ!? それで…」
「俺は殺しました」
柴田の言葉に坂田が止まる
坂田の腕からニャロメがすり抜けてそして柴田の足に頭をこすり付けた
そのニャロメを柴田がゆっくりと抱き上げる
「んにー…」
甘えるようにニャロメが柴田の胸に頭を擦りつけ鳴く
「若は…京助君たちと喧嘩した次の日どうやって会いました?」
「…べつに…普通」
「それでいいんですよ」
柴田の質問に坂田がぶっきらぼうに答えると返ってきた言葉に坂田が柴田を見た
「普通…いつもどおりで会えばいいんですよ」
柴田が笑う
「仲直りの方法っていうのは…あってないもんなんですよ」
「…別に俺は…仲直りとか…」
ぶつぶつ言う坂田の前にずいっと差し出された【登別】とかかれた紙袋
「…いってらっしゃい」
にっこりと柴田が微笑んだ
作品名:【無幻真天楼 第十二回・弐】ハリスのハリセン 作家名:島原あゆむ