【無幻真天楼 第十二回・弐】ハリスのハリセン
「京助! バケツ用意しなさい!!」
「京様ー!! 私のハートにも火がほしいですわー!!!!」
「京助このうんこもうでなくなったっちゃけど…」
「俺は一人しかおりませんってーの!!!;」
母ハルミ、ヒマ子、そして緊那羅に同時に言われた京助が怒鳴る
「あっはっは!! キョウスケは人気者だなぁ」
ハリスがソレを聞いて笑い立ち上がった
「ホームか…そういえばもう何年も帰ってないなぁ…」
ボソっと言ったハリスがうーんと伸びをしてその手を腰に当てた
「帰ってみるかな…」
「何ひとりでブツブツいってんよハリスせんせー?」
坂田が一本の線香花火をハリスに差し出した
「ま…日本の心まず一本」
坂田が線香花火に火をつけた
「慧喜…?」
慧光が席の背中に声をかける
「本当に慧喜ナリか…?」
一歩慧喜に近づいて再び慧光が聞く
「…慧喜…」
「うるさいなぁ…俺は慧喜だよ」
呆れたように面倒くさそうに慧喜が答える
「…それなら…いいナリ…」
スタスタと歩き出した慧喜の背中を慧光が不安げに見つめてた
「…かえろっかなぁ」
玄関先でハリスがボソッとつぶやいた
「いや、今からまさに帰るんですけど…;」
サンダルを履いた南がハリスに突っ込んだ
「うんや…家にじゃなく…国に」
「…ホームシック?」
家の中からの明かりで外の方に伸ばされた坂田の影がハリスの影を押した
「まぁ…そんなもん…かな」
ハリスが一呼吸おいた後玄関内にいた京助を見た
「…ここは帰る場所を教えてくれるところだね」
「は?;」
「いつから栄野家は交番もしくは観光案内所もしくは地域相談センターになったんだ?」
にっこり笑い言ったハリスに京助がわけわからんという目をむけ南が言う
「ホームスィートホーム」
「…家、甘い家」
「まさに直訳ガッテン中学二年生」
栄野家を見てハリスが言った言葉を坂田が直訳してそれに京助が突っ込む
「つうかかえろっかなーはいいんだけどさー…二学期からくんだろ? 学校…」
「んー…そういうことになってるねぇ」
チンタラと石段方向に動き出した集団の影がひとつに固まって動く
「…帰る場所は始まった場所始まった場所は帰る場所」
石段をひとつ降りてハリスが言う
「帰りたいと思う場所が帰る場所」
もう一段降りてまた言う
「命の数だけ帰る場所があって始まりの場所もある」
もう一段降りたところでハリスが振り返った
「君たちにもあるだろう?」
その一言で三人が顔を見合わせた
「…そりゃ…まぁ…あ…」
「でもソコが家とか場所とかじゃないこともある」
話す坂田の言葉をさえぎりハリスが言葉を吐く
「…どこに帰るん;」
「母さんの腹?」
「いやソレは帰りすぎ」
スパンと突っ込みを交えて漫才を始めた京助と坂田
ハリスがまた一段石段を降りる
「心にも故郷はあるんだよ」
「…心?」
「なんかそんなタイトルの歌なかったっけ?
「あー…もしかしてソレ涙のふるさとじゃねぇ?」
そう話しながら石段を最後まで降りた
作品名:【無幻真天楼 第十二回・弐】ハリスのハリセン 作家名:島原あゆむ