【無幻真天楼 第十二回・弐】ハリスのハリセン
「俺さーこの年になってなんだけど…ぶちゃけ流しソーメンっつーの食ったことねぇんだよなぁ」
チリーンと鳴った風鈴の音とかぶって京助が言った
「ンなもん俺だってねぇよ;」
「あー俺もないなぁ」
晩飯時氷の添えられたガラスの器から冷たく冷えたソーメンを汁の中にとりながらの会話
「流しソーメンって…流れてるの?」
薬味を自分の付け汁の中にいれつつ矜羯羅が聞く
「そうそう上からねこう…ソーメンが流れてくるんだー」
南が答える
「ボクはあるよ流しソーメン」
ズルルーっという音の中聞こえたハリスの言葉に一同がハリスを見た
「マジでー?; 外人のクセに日本の心和の心を経験済みなんか…いーなー」
「いや逆に外人だからってのもあるんちゃう? 観光とかでさー」
「流しソーメンっておいしいんだっちゃ?」
ちょっとずれた質問をした緊那羅にハリスがにこーっと笑いかけると緊那羅もつられてにこーっとわけもわからず笑みを返した
「いやフツーのソーメンだけど…こう…風情が…」
「散々ずるずる食べて何が風情なのまったく…」
京助が何か悟ったような顔つきで風情を語っていると母ハルミが刻んだキュウリの入った器を京助の頭の上に勢いよく置いた
「いってぇ!!; なんだよ母さん!; 何すんだよ!!;」
「…京助今口から何か飛び出したんだけど」
怒鳴った京助の口から何かが飛び出したのを目撃した鳥倶婆迦が言う
「きったないわねー…拾いなさいよ? ホラホラ、まだまだソーメンなら沢山あるからねー? ハリス君も食べてる?」
「ハイっ! 食べてますッ!!」
「…君は坂田君でしょ」
何故か答えた坂田に対して南が突っ込む
「…慧喜?」
「えっ? …何? 悠助」
いいだけ汁を吸って茶色くなりかけていたソーメンを一向に箸であげない慧喜に悠助が名前を呼ぶ
「ソーメン…」
「え? あ…ソーメン…うん」
茶色くなったソーメンを慧喜が箸であげて口に運んだ
「しょっぱくない?」
「大丈夫だよありがとう悠助」
心配そうに見上げてきた悠助に慧喜がにっこりと笑みを向けるのを慧光がじっと見ている
「慧喜…」
慧光が小さく呟いた
庭先からキャーとかわーとかいう悲鳴と笑い声が家の中に流れ聞こえる
「…なんだっちゃこの花火…まるでうん…」
「ハーイ!!!; わかっててもソレは君の口から言ってはならない言葉だよラムちゃん! その役目は俺たちだから!!;」
「…んこみたい」
モリュモリュと楕円の中から出てくるソレを見て制多迦がさらっと言う
「…タカちゃんー…;」
「…?」
言った制多迦に南が苦笑いを向けると制多迦がヘラリと笑い返す
「本当うんこだね…」
「うん、うんこだ」
「アッハッハッハ!! そう! うんこうんこ!!!;」
制多迦に続き矜羯羅と鳥倶婆迦もソレをみて何か納得したように言うと南がもうヤケだという感じで笑いながら言った
「いいねぇ…ソーメンのあとは花火…」
「じじくせーこと言ってまんなー」
ハリスが微笑みながら言うと坂田が突っ込んだ
「京助ーコレに火つけてー」
手に二本花火を持った悠助がチャッカマン片手に持つ京助の下に駆け寄ってきた
「ロウソクでつけろよ; 何のためのロウソクだ;」
京助がブツブツ言いながらもしゃがんで悠助の手持ち花火に向けてカチカチとチャッカマンを鳴らす
作品名:【無幻真天楼 第十二回・弐】ハリスのハリセン 作家名:島原あゆむ