SAⅤIOR・AGENT
ゼミの中は誰もいなかった。
シンと静まり返ったこのロビーの異変にさすがに頭に血が上ったファーランでも気づいていた。
周囲に警戒を払うファーランだったが、その姿を遠くの場所から見ている物がいた。
入口に仕掛けられた1台の監視カメラが最上階にある塾長室に電送されていた。
ここでは塾長の井浦誠太郎が黒い革の立派な椅子に座り、黒い光沢を放つデスくの上に置かれたノートパソコン画面をながら眉を細めた。
「何だこの子供は?」
疑問に思う井浦、
すると突然パソコンの画面が乱れると不気味な声とともに赤い1つ目が浮かび上がった。
『どうやら邪魔者が来たようですよ』
「……じゃあ君の言っていた?」
『ええ、ですが撒かせてください、すでに手は打ってありますから』
不敵に嘲笑う声の主は目を細くして微笑した。
突然ファーランの20メートル先にあるエレベーターのドアが開いた。
しかしエレベーターには誰も乗っておらず、何時まで経っても閉まる気配がない、
『お嬢、やっぱり何かある』
「うん、誘ってるね」
ファーランは罠と知りつつエレベーターに乗り込むと扉が静かにしまった。
エレベーターは静かに上の階に向かって行く、幸いこのビルは3階建て、エレベーターで行けばすぐだった。
「えっ?」
順調に動いていたエレベーターがガクンと止まった。ボタンを押すがウンともスンとも言わない、
「えっ、壊れ…… ええっ?」
突然エレベーターの天井、床、壁に人差指くらいの小さな穴が空くと虫に食われるようにどんどん大きくなり始めた。
「な、何よこれ?」
『お嬢、このままじゃ危ないわ!』
「うん、部分開放!」
ファーランの体操着の背中を破って翼が生えると強く羽ばたいて宙を飛び、天井を突き破って外に出た。
下を見るとエレベーターは完全に消滅した。
「何なの?」
『何かあるのは事実ね、一度戻ってタクミ達と合流した方が賢明よ』
「冗談じゃない!」
ファーランは一気に上昇して3階の扉をこじ開けた。
「ええっ?」
ファーランは大きな瞳をさらに見開いた。
そこにいたのは黒いスーツとネクタイとメガネと手袋のガタイの良い男2人組が立っていた。
「何?」
ファーランは身構える、
すると男達はファーランに向かって襲いかかった。
「くっ!」
ファーランは最初に自分に向かって突き出された敵の拳を両手で受け流すと懐に入り込んで後ろから来た敵の拳を蹴りで跳ね返した。
そのまま背後から殴りかかって来た敵の攻撃をしゃがんで回避すると追撃の下段蹴りが迫ってくる、
ジャンプしてでの回避が間に合わずに両手でガードするが威力がありすぎてエレベーターの扉に叩きつけられた。
「うっ!」
ファーランは一瞬体を仰け反せるが休む間もなく、敵は自分に迫っていた。
上半身に力を入れてその力を利用して前転して敵の隙間を塗って背後に回って間合いを開けた。
「ロン、何なのこいつら? 地球人?」
『いいえ、こいつらに生体反応は無いわ』
ファーランは自分の手を見た。
先ほどから相手に触れているが人間の感触がまるでない、まるでプラスチックの人形にでも触れているような感触だった。
「じゃあ思いっきりやれるね!」
そう言うとロンにセイヴァ―・アームズを転送させてもらう、
「β・モードっ!」
トンファーの縦棒に赤い光が灯るとまず敵の一体の繰り出してきた突きを懐に入り込んで回避し、そのまま腹部を右のトンファーで切り裂き、残った1体も同じように左手のトンファーで切り裂いた。
体を真っ二つにされた敵達はその場に倒れて消滅した。
「やっぱり何かある…… あっ!」
すると何もなくなったはずの廊下に今度は複数の男達が現れた。その数はざっと10を超えている。
「こんなに戦えない!」
『お嬢、力の一部を開放するわ。とにかく近くの部屋に!』
「うん」
ファーランは右手のトンファーを左手に重ねて持つと右肩から下が緑の鱗の肌となり、渾身の力を込めた拳で一番先頭にいた敵に強力な一撃を放った。
「うりゃあっ!」
途端ドミノ倒しのように敵全員が廊下の隅にまで吹き飛ばされた。
ファーランは右腕を戻すと近くにあった部屋のドアを開けて中に入った。
作品名:SAⅤIOR・AGENT 作家名:kazuyuki