SAⅤIOR・AGENT
保健室、今明石さんはベットで眠っていた。
しかしそれはボールがぶつかった事とは別の理由だった。
あのサーブは決して避けられない物じゃなかったし、それほど強い訳でもない誰でも簡単に打ち返せる物だった。
「衰弱がやけに激しいわ、まるで何日も飲まず食わずで徹夜したみたい…… 今日はこのまま早退させた方がいいわね」
本心で心配そうに見つめる不破さんを横に私は先生に聞いてみる、
「先生、やっぱり明石さんは何かあったんじゃ……」
この状態は尋常じゃない、となると何かあったに違いない、
「とは言うけどね……」
里中先生は死んだように眠る明石さんを見た。
実は里中先生も昨日探索派のセイヴァ―・エージェントに頼み込んで彼女の事を調べたのだが彼女の周辺で変わった事は無かったらしい、
「そうでもないぜ」
突然男の声が聞こえて振り向くといつの間にか三葉さんが里中先生のパソコンの前に座っていた。
「み、三葉さん、いつの間に? 今球技大会じゃ?」
「んなモン、サボったに決まってんだろ」
三葉さんは後ろ向きのままケラケラと笑いだした。
そんなあっさりと……
「球技大会どころか、サイモンは通常授業でもここでサボってるわよ」
里中先生は頭に手を当ててため息を零した。
心なしか不破さんの時より深かった。そう言えばこの人問題児だっけ?
「それよりも『そうでもない』って?」
「ああ、その子ん家のパソコン調べたんだけどな……」
「貴方、またハッキングしたの?」
「人聞き悪いぜチヅルちゃん、ちょっくら調査しただけだよ」
「プライバシーの侵害は立派な犯罪ですよ!」
「細けぇ事言うなよ妹! おかげで色々わかったんだから+−0だろ」
いや、犯罪は犯罪だし、
この人は私の事を妹と呼ぶ、実際に妹だけど何だか釈然としなかった。
「それで、貴方の『調査』の結果は?」
「それなんだが…… ファーラン、その子がおかしくなったのって1月前からだったよな?」
「うん」
「その子、通信学習受けてるよ、毎日1時間程度のな」
「それがどうかしたの?」
「このパソコン画面見てみろよ」
そう言われて私と不破さんはパソコン画面を見た。
どう見ても普通の数学の問題だった。だけど注意して見ている内に私の意識が遠くなっていった。
「マイ? マイ!」
「えっ?」
不破さんに言われて三葉さんはノートパソコンを閉じた。
「こいつは問題に擬態させたコンピュータ・ウィルスだ。人間の目から入って洗脳させて問題を解く度に自我が無くなり命令道理にしか動けない人形になる」
「洗脳なんて…… そんな事ができるの?」
「もちろん可能だぜ」
三葉さんは説明する、
洗脳とは脳さえあればどんな生物でも意のままに操る事が出来ると言う、
「勉強ができるようになったって言うのも、実は過去に聞いた授業の内容をブレイン・トレースしてるだけだ」
「そう言えば記憶って、本人が忘れてても脳に蓄積されてるんですよね?」
「ああ、このウィルスはそれを引き出す力を持ってる、そしてその情報と周りから命令道理に忠実に動くって言う信号をブレンドして脳に刷り込んでるだけだ。決して頭が良くなった訳じゃない」
「とんでもない物を作ったものね」
里中先生は顔を顰めた。
だけど実際はとんでもないなんて言葉で済む物じゃなかった。
「こいつは脳にかなりの負荷をあたえる、それは肉体にまで影響して、やがてはお陀仏だ」
「そんな、どうしてそんな事を?」
「さぁな、製作者本人に聞いてくれ」
それはそうだ。
犯罪者にも色々理由がある、その理由は本人しか知らない、
「まさか異星人の犯罪ですか?」
「さぁな、だが地球の物じゃないのは事実だ。そして発進場所も分かってる、ここだ」
三葉さんは再び画面を見せた。
それはとあるホームページで『スマイル・ゼミナール』と書かれていた。
「そこのビルは『井浦誠太郎』って奴が借りてるビルだ」
ホームページにはビルのオーナーであり塾長の顔写真が掲載されていた。
白髪交じりのオールバックに黒いスーツ、洒落たメガネに赤いラインのは言った黒いネクタイを撒いた40代半ばくらいの男だった。
彼は1人でこのゼミを立ち上げ、経った2年で入会者10万人を超える通信塾に育て上げたと言うのだ。
「あれ、確かこの人どこかで……」
私はその顔に見覚えがあった。
ずっと前に見た事があるのは覚えてる、だけどどこでかまでは思い出せなかった。どうにかして思いだそうとしていると……
「分かった!」
「ちょ、待ちなさい! ファーランっ!」
不破さんは里中先生の制止を聞かずに保健室を飛び出した。
「全く、あの子ったら……」
「おーい」
すると兄貴が入口から顔を出した。
何でも試合が終わって体育館に行ったのだが私達がここに来たと言うので気になったらしい、
「どうかしたのか? ファーランが凄い形相で出て行ったぜ?」
「ああ、実はね」
里中先生が事情を話した。
すると兄貴は頭を掻き毟った。
「あのバカ、いくらウィルスが宇宙せいでも異星人が使ってるかどうかも分からないってのに……」
「タクミ君、ファーランを連れ戻してきてくれる? ほおって置いたらあの子取り返しのつかない事をするかもしれないわ」
「そりゃあいつがキレたら町の1つや2つ消えちまうだろうな、ギャハハハ!」
「笑いごとじゃないでしょう!」
と言うか笑えない冗談だった。
ドラン人は普通のトカゲサイズからビルより大きなサイズまで存在すると言う、
不破さんの本当の姿はこの学校を踏みつぶしてしまうほど大きいらしいけど、リアル怪獣映画になったらマジでシャレにならない、不破さんが異星人犯罪者になってしまう、
「じゃあ行くぞ、相棒」
『了解!』
兄貴は誰にも見られないように扉を閉めるとテレポートして不破さんの後を追いかけた。
作品名:SAⅤIOR・AGENT 作家名:kazuyuki