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 保健室のドアが閉まると里中先生はため息を零しながら椅子に座った。
「それにしても困ったわね、タクミ君は少しばかり遠い所に行ってるから、しばらく帰って来れそうも無いわ」
「そんな、何とかならないんですか?」
 私が訪ねると里中先生は考えた。
「……まぁ、あるにはあるんだけど、贅沢は言ってられないか」
 里中先生はポケットから携帯電話を取り出した。
「あ、ファーラン? 今すぐ来てくれる? ええ、制服はちゃんと着て来てね」
 それだけ言うと里中先生は電話を切った。
「誰か来るんですか?」
「新しくこの地球に配属になったセイヴァ―・エージェントよ」
 里中先生が言うには2日前、兄貴のようにこの地域配属になったセイヴァー・エージェントがやって来たと言う、いずれこの学校に転入させるつもりらしいけど、手続きが済むまでは今は自宅で待機させていたと言う、
 里中先生の言う通り待つ事数十分、次第に私達の耳に廊下を走る音が聞えてきた。そして次第に大きくなって行くと保健室の扉が勢いよく開いた。
「ミーゼルちゃん、来たよ〜」
 聞きき覚えのある声に振り向く、
 そこに立っていたのは何とあの女の子だった。さらに驚いた事に私達と同じ桜星高校の制服を着ていた。
「あ、貴女は……」
「へ?」
 女の子は目をパチクリさせる、
 すると里中先生は尋ねてきた。
「この子知ってるの? 妹さん」
「あ、はい、今朝自販機を持ち上げてて……」
「うええっ?」
 私の言葉に女の子は両肩をビクつかせた。
 さらに反応したのは彼女だけではなかった。何と里中先生の顔が鬼神に見えた。
「ファーラン、それは一体どう言う事かしら?」
「え、えっと……」
 ファーランと呼ばれた彼女はガタガタと震えながら髪飾りに白くて細い指を当てた。
「ちょっとロン! アンタちゃんと記憶を消したの?」
『け、消したわよ、でもあの娘はどう言う訳か記憶が消えて無いわ』
「何でよ? アンタ壊れたんじゃないの?」
『バカ言わないで、私はお嬢ほど抜けて無いわよ』
「誰が抜けてるですって?」
「ファーランっ! ロンっ!」
 里中先生は細い眉を吊り上げて立ち上がる、すると彼女は両肩を落とした。

 彼女のフルネームはファーラン・ナーガ、惑星ドラン出身、地球では不破・蘭と名乗る事にしているらしい、
 そして髪飾りは兄貴のギルと同じく彼女のサポーターだった。
 とにかく床に正座させられて小さな肩を余計に小さくし、首を亀みたいに引っ込めていた。
「全く、貴女って子は…… あれだけ外出する時は気を付けろって言ってあったでしょう!」
「ふぇえんっ、ごめんなさ〜いっ!」
「ロンも地球人のデータは入ってあったでしょう、注意しなかったの?」
『面目ありません、何分背後の事は見えなかったもので……』
 そりゃ前髪に付いてれば見えないわよね、私は後ろにいたんだし……
 里中先生は咳払いすると改めて水城先輩を見ながら不破さんに言った。
「まぁ良いわ、貴女の任務は彼女の護衛よ」
「えっ? いよいよお仕事? ヤターっ!」
「ファーランっ!」
 その大声に私達は驚いた。
 調子に乗って大喜びする不破さんに里中先生は一喝した。
「ごめんなさいね、でもこの子はこんなだけど腕の方は確かだから」
「はぁ……」
 何だか凄く心配だった。