SAⅤIOR・AGENT
レンの攻撃はオレの頬をかすめ、その衝撃で血が吹き出た。
だがオレの拳は確実にレンの顔面にめり込んでいた。
「ふっ…… ぐっ?」
嘲笑ったレンの顔に変化が訪れた。
オレの殴った箇所から亀裂が入った。
「バ、バカな!」
シドは身を乗り出す。
レンの顔の亀裂は全身に広がって行く。
「ぐあああああっ!」
部屋中に響き渡る断末魔と供に異形と化した体がガラスの様に砕け散った。
砕かれた外殻は床に落ちた瞬間消滅、その下から元の姿に戻ったレンが現れた。
しかし普通に戻った訳じゃ無かった。まるで糊で貼り付けた紙を無理やり引っ張ったかのように全身の皮膚が破れ、血を噴き出しながらその場に倒れた。
オレは両肩を上下に動かし、息を荒くしながらレンを見下ろして言った。
「オレの…… 勝ちだ」
しかし安心するのはまだ早かった。
残念ながらこれで終わりじゃ無かったからだ。何せまだ1番重要な奴が残ってるからな。
オレはシドを睨みつける。
「次はテメェだ! 覚悟しやがれ!」
まだ余裕はある、こいつを倒すぐらいの時間は残ってる。
オレが言うとシドはオレの足元のレンを見た。
「……フン、どいつもこいつも使えない、ゴミどもは所詮ゴミと言う訳ですか」
シドは吐き捨てる。
だけどオレはその言葉が癪に障った。
「オイ、そりゃどう言う意味だ?」
「言葉の通りですよ、使えない物は所詮ゴミです」
オメガの事なんざ知った事じゃねぇが、それでも懸命に戦った部下をゴミ扱い、身内だろうが敵だろうが頭に来るぜ。
それはオレだけじゃ無かったみたいだ。
「最っ低、アンタ仲間を何だと思ってんのよ?」
ファーランが言う。
「仲間? バカバカしい、オメガに必要なのは使えるかどうかです、それ以外には必要ありません」
「何っ?」
「オメガってのは、本当にゲス野郎ばかりだな」
バイスは眉間に皺を寄せ、いつもは余裕たっぷりのサイモンも目を吊り上げた。
しかしシドは余裕ぶって言って来る。
「貴方方の奮闘は認めて彼女はお返ししましょう…… ですが、これで勝ったと思わない事ですね、もうすぐオメガのデモ・ストレーションが始まります、地球はおろかセイヴァー・エージェントも終わりです」
「どう言う意味だ?」
オレは分からなかった。
地球はともかくとしてセイヴァー・エージェントって辺りが理解できなかった。
するとシドはクスクスと笑い始めた。
「愚かですね、全てがオメガの策略とも知らずに……」
「策略?」
「知っていますよ、もうすぐオメガ討伐の為に選りすぐりのセイヴァー・エージェントがやって来るのでしょう」
オメガの本当の狙いはここにあった。
奴らの本当の目的は地球ではなくセイヴァ―・エージェントだった。
オメガほどの巨大な組織ならば当然動けば惑星平和連合が黙っていない、ならばその宇宙平和連合を利用しようと言うのだった。
「惑星平和連合の一角である宇宙密偵団体のエリート達を一掃する事こそ最高のデモ・ストレーションなのですよ」
「テメェ!」
オレはシド目がけて跳びかかり、右拳を顔面に放った。
オレの拳はシドの顔面に当たったかと思うとシドの仮面が砕けた。
「何っ?」
オレは思わず数歩下がった。
何と仮面の下はロボットだった。
こいつは初めからオレ達の目の前にいなかった。どこか安全な場所でロボットを操作してオレ達と会話をしていたって訳だった。
「くっ」
「……嵌められたぜ」
サイモンは舌打ちをする。
『ご苦労様と言うべきですかねぇ、しかし貴方方の努力も虚しく水の泡です』
「野郎!」
オレはロボットを睨みつける。
この向こう側でオレ達を馬鹿にしているのは目に見えている。
「ボ、ボス……」
レンは仰向けになりながらロボットに向かって言う。
ロボットの頭部がレンの方を見て言った。
『レン、貴方には失望しましたよ、強力な力を与えた上に何度も犯した失態にも目を瞑ったと言うのに…… この不始末は死を持って償いなさい』
するとレンに変化が訪れた。
「がああああっ!」
突然レンが頭を抱えて苦しみ出した。
「レンっ!」
「貴様、何をした?」
『レンの体の中に仕込んだ自爆装置を発動させただけですよ、小型ですが威力はあります…… このアジトくらいは木っ端微塵に吹き飛ぶでしょう』
「何だと?」
『死にたく無ければさっさと逃げるのですね、ですが地球が滅ぶのですからどちらにしろ……』
「ざけんなっ!」
オレは渾身の力を込めて拳を振るう。
ロボットは勢いよく飛ばされると火花を立てながら動かなくなった。
作品名:SAⅤIOR・AGENT 作家名:kazuyuki