SAⅤIOR・AGENT
その頃。
人里離れた森の中に極秘裏に建てられた旧日本軍の兵器開発施設後、今では使われる事はおろか人が達いる事すら無くなったこの場所は今ではオメガの恰好の隠れ場所となっていた。
地下に設けられたオメガの基地、そしてその一室では両手に銀色の金属で作られた手錠をかけられた塩田・恵が捕えられていた。
そして……
『このクズがっ!』
「がはっ!」
バドがレンの腹部に足刀蹴りを放つとレンは埃だらけの床に転がった。
『テメェの責でオレが怪我をしたじゃねぇか、どうしてくれるんだヨっ?』
バドはさらにレンを蹴り飛ばした。
周囲のオメガの者達は呆れるか鼻であざ笑うかのどちらかだった。
「止めて!」
すると恵は横たわるレンに覆いかぶさるように庇った。
『な、何だテメェ? 引っ込んでろ!』
「嫌よ! 元はと言えば貴方がに割り込んだからじゃない! どんな理由にしろ自分の責任を人に押し付けないで!」
『こ、このアマァ!』
頭に血の昇ったバドの手甲から刃が飛び出ると恵に向かって振り下ろそうとする。
「止めなさい、バド」
『ボ、ボス…… しかし!』
「気持ちは分かります、ですが失態は失態を起こした者に償わせるべきです」
『チッ!』
バドは舌打ちをすると刃を引っ込めてレンから離れた。
するとシドは仮面越しにレンを見下ろす。
「レン、さっさと彼女を始末して置きなさい、仕事が山ほどあるのですからね」
「……は、はい」
レンは頭を下げる。
シドはマントを翻すと部下達と供に部屋を去って行った。
「くっ!」
レンは体を起こして恵を振り払うと間合いを開けて訪ねた。
「何故助けた?」
「だって…… ほおっておけないじゃない」
「……おかしな奴だな、オレはお前を殺そうとしてるのに」
「おかしいのは貴方の方よ、どうしてあんな人達と一緒にいるの?」
「言わなきゃならない事か?」
逆に聞き返されて恵は何も言えなくなる。
レンは息を吐くとポケットの中から匠との戦闘で鎖を切断されたロケットを取り出した。
スイッチを入れると中央の水晶から光が溢れ、その中に少し幼いレンとさらに1人の子供が映し出された。
「オレは…… オメガに命を救われた」
レンは語った。
レンの惑星はとても貧しく、国同士の争いが絶えなかった。
レンの生まれ育った国もその内の1つで、戦争に勝つ為に様々な兵器開発を行い、まさに阿鼻叫喚の地獄の様な生活だったと言う。
働けど働けど税金で持って行かれ、払えない者は採掘場や工場などで働かされるか、兵器の実験台にされるかのどちらかだった。
レンは早くに両親を失い、唯一残された妹が心の支えだった。
妹を養う為に血を吐く思いで働いたが、税金が払えなかった為に妹が国の役人達に目を付けられた。
連れて行かれる事に耐える事が出来なかったレンは抵抗するが、当時の超能力では全く歯が立たず、還り討ちにあって重傷を負い、妹も連れて行かれてしまった。
自分の無力さと心の支えを失った事により絶望し、悲しみのどん底に沈んでいた所に手を差し伸べてくれたのがシドだった。
超能力開発の為にその惑星に訪れていたシドにより命を拾われたレンは妹を取り返す為に思念能力を強化する改造手術を受けて王宮に飛びこんだ。
しかしそこで待っていたのは兵器の実験台にされ、他の人間達の遺体の中にゴミの様に捨てられていた妹だった。
怒り狂い、復讐の鬼と化したレンは能力で国の全てを消し飛ばし、何も残らない荒野へと変えてしまった。
その後レンはオメガと供に宇宙へ行ったが、故郷の方は国同士の戦争で消滅してしまったと言う。
「………」
話を聞いた恵はさすがに息を飲んだ。
レンは過去の怒りに顔を歪めると震えるとロケットを握りしめた。
「お前は言ったな、確か『正義を捨ててまで逃げる事はしない』と、正義なんてそんな物だ。人々の暮らしを踏みつぶし、自分が勝つ為に他人の物を奪い、大義名分でかたずける、そんな物に庇う理由があるって言うのか?」
「それは違う!」
恵は叫んだ。
「そんなの正義じゃ無い、本当の正義は誰もが平和で平等になれる物で……」
「そんな物、この宇宙のどこにもあるか!」
レンは恵の言葉を遮った。
レンは周囲の朽ち果てた機材を見回す。
「地球の歴史も調べたぞ、この惑星の人間達も太古の昔から争いの連続、この施設もかつては人間を大量に殺す為に研究された場所…… 今だって戦争をしている所もあるだろう?」
「確かにそう言う所もまだあるわ、でも全部じゃ無い、地球には戦争もなく平和に暮らしている人だっているのよ」
「そんな物はまやかしだ! 戦争が無ければ平和だとでも言うのか?」
「そ、それは……」
恵は言葉を無くした。
戦争は決して起こしてはならない物、だが戦争以外でも命を落す事もある、些細な事やちょっとした言い争いが元で頭に血が上り、他者の命を奪うなど新聞やニュースなどで良く放送されている事だった。
「分かったか、どれだけ命を奪おうとも、どれだけ破壊を繰り返そうが、そしてどんな手段を使ってでも勝つ、それが正義の正体だ。所詮命など、1人だろうが100人だろうが、俺にとっては石ころも同然だ」
「……それで満足なの?」
「何……っ?」
レンは眉を引くつかせた。
恵は表情こそ凛としているが、その大きくて綺麗な瞳には涙が浮かんでいた。
「自分の家族を殺した国を滅ぼして、オメガに入って、貴方はそれで満足なの? これが本当に貴方のやりたかった事なの?」
「どう言う意味だ?」
「貴方は被害者よ、でも貴方は妹さんを失った悲しみから逃げてるだけじゃ無い!」
「黙れ!」
レンは激昂し、恵の胸倉をつかんで持ち上げた。
「お前に何が分かる? 平和ボケした国で育ち、小競り合いレベルの中で正義をほざくお前なんかに!」
「きゃあっ!」
恵は振り払われると地面に転がる。
レンの右手の中に両刃の剣が出現し、切っ先を恵に向ける。
「安心しろ…… 苦しみはホンの一瞬だ」
レンは剣を振り上げる。
恵は目を身を竦ませながら目を閉じた。
だがその時、突然施設内が大きく揺れた。
「なっ?」
天井からパラパラとコンクリートの粉が降り注ぐ。
レンは部屋の外に出るとオメガの工作員が慌てふためいていて自分の目の前をよぎっていた。
その内の1人に肩をレンがつかんで尋ねた。
「おい、どうした?」
「敵襲だ。何者かの侵入を受けてる!」
「何っ?」
レンは顔を強張らせた。
作品名:SAⅤIOR・AGENT 作家名:kazuyuki