SAⅤIOR・AGENT
「兄さん?」
私達は立ち上がる。
カプセルから光が消え、鈍い音を立てながら開くと兄貴が右手で左肩を抑えながら首を捻った。
「兄さんっ!」
「タクミ君、大丈夫なの?」
「ああ、絶好調だ。むしろ体が軽くなった気分だぜ」
兄貴はカプセルから降りると里中先生を見た。
「千鶴ちゃん、その『彼女』って…… 今は何してんだ? やっぱりセイヴァー・エージェント辞めちまったのか?」
兄貴はカプセルから降りると里中先生に尋ねた。
すると里中先生は首を横に振った。
「いいえ、資格を貰ってセイヴァー・エージェントになったわ、今はとある惑星のセイヴァー・エージェントになったわ。」
「そうか…… 逃げ無かったって事か」
「……でも恐くなったのは事実よ、それで派閥を替えたぐらいだもの」
里中先生は今度は私を見た。
「妹さん、さっき言ったわよね、自分は恐くて何もできなかったって…… それで良いのよ」
「で、でも……」
「勇気と無謀は違うわ、勇気と言うのは恐怖を知っているからこそ出来る物、恐怖を知らないで危険と立ち向かうのはただの命知らずのする事よ」
刹那の間が空く。
「妹さん、貴女は決して弱い人間じゃ無い、弱さを知ってる人間よ、もっと自信を持って」
「ま、塩田ちゃんは明らかに無謀なほうだけどな」
「あ、そうそうタクミ君、実はね……」
里中先生は言って来た。
実はゼルベリオスから援軍が放たれ、オメガ討伐の為に兄貴達は合流しなければならないと言う。
「そんな暇ねぇだろ、塩田ちゃんの命がかかってんだぞ」
「連れさられた場所は恐らく奴らの本拠地よ、貴方が苦戦した彼やそれを上回る連中がゴロゴロいるはず」
「だけどな……」
「私達の力じゃどうにもならないわよ、現にタクミ君はここまでやられたのよ、それとも何か方法でもあるの?」
さすがに兄貴も歯を軋ませて何も言えなくなる。すると……
「良い方法があるぜ」
扉が開くと三葉さんと大神さんと不破さんが入って来た。
「お前ら?」
「タクミ、治ったんだ」
「サイモンが作ったんだから当然だろ」
「そんな事より、良い方法ってのは?」
「おう、そうだったそうだった。要するに奴さん達の基地に潜りこんであの娘を助けて、本星の連中と合流すれば良いんだろ?」
三葉さんが言うには援軍が来る前にオメガの本拠地に秘密裏に侵入し、塩田さんを助けると言う事だった。
「連中は彼女の事で予定を狂わされたはずだ。ただでさえオメガはデモストレーションを実行しなきゃいけないのに余計な時間を食ってゴタゴタしてるはずだ」
「確かに、連中の最大の目的は地球を実験台にする事、彼女1人に構っている時間は無いはずだ」
つまり塩田さんの始末は少数、実力も低い者達で行われ、実力のある物達はシドと行動を共にする、確かに狙うとしたらそこだけど……
「でもそれを見通してたらどうするの? 連中は塩田さんが発信器を持ってるなんて簡単に推測できるはずでしょう?」
「それでも行かなきゃならねぇだろ、例え学校で嫌われてても、彼女には家族がいるんだからよ」
それを聞いた途端、里中先生は『あっ』と言う顔をした。
そして数秒目を泳がせて深くため息を零すと兄貴に向かって言った。
「貴方にも家族がいるでしょう、妹さんを二度も悲しませるの?」
その言葉に私は以前兄貴を喪ったと思いずっと塞ぎ込んでいた時の事を思い出した。
もし兄貴がオメガの基地に飛びこんで兄貴にもしもの事があったら……
そう考えていると兄貴は鼻で笑った。
「心配ねぇよ、知ってるだろ、オレは勝算の少ない戦いはしないって」
「あるって言うの?」
「ああ、オレには最強の力がある」
兄貴のとって置き……
兄貴は戦闘用の改造人間だから体の中に何を仕込んでてもおかしく無い(と言うか三葉さんが仕込まないのがおかしい)けど、兄貴が言うとって置きって言うと…… やっぱり超能力? でも兄貴はテレポート以外は使えないはずじゃ……
「今回はタクミだけじゃ無いよ、相手が誰だろうと、要するにぶっ潰せば良いんでしょ? 簡単じゃん」
「戦闘は最後の手段だ。人質の奪還が最優先だ」
「オレ様がちょっくら見て来たけど、人数も見取り図も作ったぜ」
「見て来たって…… どうやって?」
「おっ、何だ。聞きてぇのか、妹?」
三葉さんの目が輝いた。
聞きたい様な聞きたくない様な……
三葉さんはパソコンの中に入る事が出来るから、多分この基地を通ってオメガの基地を調べたんだろう。
「……貴方達、本当にそれでいいの?」
「何がだよ?」
「サイモンの情報はともかくとして、貴方達がこれからしようとしてる事は重大な規律違反よ、そうなれば私だけじゃなくて貴方達のクビもただじゃすまないわよ」
「ああ、別に良いぜ、なぁ?」
兄貴、即答っ?
「最初はどの面下げて舞に会いに行けば良いのか分からなかったけど…… 今は違う、もしクビになったとしても舞と一緒にいるつもりだ」
兄貴に続いて不破さん、大神さん、三葉さんも続いて言って来る。
「そうだよ、アタシもバイトしまくりで地球に住む、まだ買って無いマンガやDVD沢山あるし」
「自分の答えはすでに決まっています、例えクビになっても後悔はしません」
「いざって時はオレ様が会社作って養ってやるよ、オレ様には色んなスポンサーがいるからな」
「あ、そりゃいいな、そん時ぁ頼むぜ」
「止めておけ、給料は良さそうだが怪しすぎる」
大神さんの言う通りだった。
そのスポンサーってのがどう言う人達なのか、嫌な予感しかしなかった。
「……ホントに、仕方のない子達ね」
里中先生は苦笑する。
そして兄貴達に向かって命令を出した。
「今回の任務はあくまでも塩田さん救出、ただし作戦は秘密裏に、そして戦闘は極力回避、全てはゼルベリオス本体と合流する前に終わらせるわ!」
「「「「了解!」」」」
兄貴達は力強く頷いた。
私は兄貴に近付いてギルを手渡した。
「兄さん、塩田さんを助けてあげて」
「ああ、任せろ!」
兄貴は微笑しながら私の手からギルを受け取って部屋を出て行った。
作品名:SAⅤIOR・AGENT 作家名:kazuyuki