SAⅤIOR・AGENT
その頃。
私は兄貴の治療カプセルに背を当てて床に腰を下ろしていた。
『どうした、マイ?』
「ギル……」
『顔色が優れない、何か悩み事か?』
「……それは」
私は口ごもった。
今は誰もいない、ギルだって話せば分かるから黙っててと言えば何とかなるだろう、だけど私の心には迷いがあった。
すると扉が開くと里中先生が入って来た。
「タクミ君はどうかしら?」
「先生……」
私は立ち上がる。
里中先生は私の後ろの兄貴の様子を見る。
「まだ時間はかかるみたいね、妹さんも少し休んだら? 今日は大変だったでしょう?」
「いえ、私は…… 兄さんが守ってくれましたから」
「そう」
里中先生は壁にかけてあった椅子に腰をかけた。
「妹さん、嘘が下手ね」
「えっ?」
「確かに怪我1つしてないみたいけど、もっと深刻な怪我がここにあるんじゃない?」
里中先生は自分の左胸に自分の右手の人差し指を突き立てた。
やっぱりバレてた。実はこの人も超能力者で、テレパス(人の心を読み取る能力)でも使ってるんじゃないかと思った。
「話したく無ければそれでいいわ、だけど人を頼っても良いんじゃない?」
「……私は」
私はうつむいた。
後ろを振り向いて兄貴を見る。
兄貴は私達を逃がそうと戦ってボロボロになった。
ましてや塩田さんだって私を守ろうと敵の前に立ちふさがった。
だけど私はただ怯えているだけだった。
兄貴は恐いならそれで良いと言ってくれたけど、私と同じくらいの塩田さんでさえ自分を殺しに来た相手を前に怯みも…… いや、怯みはしただろう、それでも逃げはしなかった。
「もしかしてさっきの事? 貴女の場合は仕方ないでしょう」
「仕方なくなんかない!」
私は相手が先生だと言う事も忘れて叫んだ。
里中先生は呆気にとられるとやがて目を閉じて微笑した。
「驚いたわ、妹さんもそんな大声が出せるのね」
私は顔を顰めながら目を背ける。
一間置くと里中先生は言って来た。
「……昔ね、1人のセイヴァー・エージェントがいたの」
「えっ?」
「そのセイヴァー・エージェントはかつては任務遂行が全てだと思っていたわ、その為か彼女は周囲から孤立してね…… 皮肉もたっぷり込めて『鮮血の女帝』と言うあだ名が付けられたわ」
里中先生は続けた。
セイヴァー・エージェントになるにはただ養成所を卒業できれば良いと言う訳じゃなく、最終試験として1ヶ月間、惑星保護条約御登録惑星の防衛任務に付いているセイヴァー・エージェントの元で修業しなければならなかった。
その星でも浮いていた彼女だったけど、ただ1人だけ、班長である戦闘派のセイヴァー・エージェントだけは彼女を分け隔てなく接してくれた。
しかしそんなある日、今回の地球の様にその惑星で宇宙でも名高いマフィア同士の密会が開かれる事になり、セイヴァー・エージェント達は直ちに宇宙マフィアの討伐の指令が出された。
でも仲間達に裏切り者がいて、その責で彼女達は窮地に追い込まれてしまった。
次々と仲間達が倒れて行き、ついに班長も彼女をかばって負傷、怒った彼女は我を忘れて暴れ回った。
しかしその攻撃が重火器を巻き込んで大爆発を起こし、建物は大爆発を起こし火災となった。
そこで彼女の意識は途切れ、目を覚ました先は病院だった。
不幸中の幸いと言うべきか、仲間のセイヴァー・エージェント達は重症だが命に別状は無かった。ただ1人を除いて……
「班長は家族がいて、任務遂行を優先する為に家族を犠牲にしてしまったらしいわ、それで辺境の星の防衛に着いたんだって」
その班長さんは彼女を娘さんと掛け合わせていたんだろう。
彼女を気にかけていたのも任務遂行の為に誰かを犠牲にするような真似をさせたくなかったからに違いない。
里中先生は一通り話をすると深くため息を零すと微笑して答えた。
「彼女はバカだったわ、失って初めて守ると言う意味を理解できたのだもの、本物の臆病ものよ」
「そんな訳ねぇだろ」
その時、私の後ろから声が聞こえた。
作品名:SAⅤIOR・AGENT 作家名:kazuyuki