SAⅤIOR・AGENT
突然公園中の木々が揺れたかと思うと黒い影が飛んで来て兄貴に襲い掛かった。
「うおおっ?」
兄貴の体中が切り裂かれて血飛沫が舞った。
すると1体の異星人が兄貴の目の前に現れた。
兄貴より…… いや、私より背が低い、中央に黒いラインが3本の白い光沢ののっぺらぼうの仮面を付け、無数の黒い羽毛が首の周りに付いた黒いマントを羽織り、両手にはめた機械のグローブの甲から飛び出ている両刃の刀身に兄貴の血がべっとりと付着していた。
「貴様…… バドっ?」
バドと呼ばれたその異星人は後ろの男を見た。
『随分と手こずっているようだなぁレン、力を貸そうカ?』
バドは金属を擦るような声で言う。
するとレンと呼ばれた男は答える。
「ふざけるな! ……これは俺の任務だ!」
男はフラつきながら立ち上がろうとする。
だが信じられない事が起こった。何と仲間であるはずのバドがレンに即答蹴りを放った。
「ぐはっ!」
男は痛みに顔を歪めて上半身を曲げる。
『生きがるなヨ、お前がそんなだからあのお方が自ら動く事になるんだろうが』
「何っ?」
後ろを振り向くとそこには複数の黒服の男達が姿を現した。
ざっと見積もって7〜8人、髪の色は黒とか金とかそれぞれ違うけど、黒いネクタイとスーツとサングラスと言う恰好をしている男たちは中央にいる人物を守るように歩いていた。
そして中央にいるのは黒いシルクハットに白い道化師のような仮面、首から下は黒いネクタイとスーツ、その上から黒いマントを羽織っていた男だった。
「帰りが遅いと思ったら……、その様は一体どう言う事ですか?」
その道化師風の男はレンに言う。
レンは震えながら目線を下に降ろした。
兄貴を苦しめている奴が怯えるなんて、多分オメガのトップクラスなんだろう。
「も、申し訳ありません、敵が思ったよりやるようでして……」
「言い訳は結構、貴方は殺す相手を選んでいるから弱いのですよ、さっさと『あれ』を使っていれば、こんな事にはならないはずです」
「………」
何も言えなくなったレンは口を紡いだ。
「まぁ良いでしょう、今は責任をどうこう言っている場合ではありませんのでね」
仮面の男はこちらを見た。
兄貴もセイヴァー・アームズを構え直して臨戦態勢を取る。
途端男は手を伸ばして来た。
「落ち着きなさい、私は戦うつもりはありませんよ、これは交渉です」
「交渉だぁ?」
兄貴は眉間に皺を寄せる。
「そう、私達の目的はそちらのお嬢さんだけ、彼女を渡すと言うのならば貴方とそちらのお嬢さんは見逃してあげようと言うのですよ」
「ハッ、何が交渉だ。ただの脅迫だろうが!」
「人聞きの悪い、私は余計な血を見るのが嫌なだけですよ」
「良く言うぜ……」
兄貴は鼻で笑うけど、正直今の兄貴には余裕が無かった。
ただでさえ1人で苦戦してたのにこれだけの援軍、相手を選んで弱いと言われた彼が本気の実力じゃないならば連中はそれ以上と言う事になる、どう考えても兄貴に勝ち目はない。
「さぁどうしますか? この選択を間違えるような事は無いでしょうけど」
「ハナっから決まってるよ、お前らを倒して2人を助けるってな!」
兄貴は言いきった。
すると男は仮面ごしに小さく笑いながら答えた。
「正気とは思えませんね、これだけの人数相手に勝てると思ってるのですか?」
「やってみなきゃ分かんねぇだろ!」
兄貴とオメガ達にしばしの沈黙が走る。
仮面の男は呆れた感じでため息を零した。
「愚かな…… 英雄気取りは命を縮めますよ」
仮面の男が手を上げる。
同時に黒服の男達が前に踏み出すと懐から警棒に似た武器を取りだした。
「兄さん……」
私は固唾を飲み込む。
兄貴も顔をひきつらせて一歩下がった。
「やってしまいなさい!」
仮面の男が叫ぶと手下達は一斉に襲い掛かった。
兄貴も破れかぶれになったのだろう、飛びだそうとしたその時だった。
作品名:SAⅤIOR・AGENT 作家名:kazuyuki