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 結局何も言え無かった。
 やっぱり人間直ぐには変われないな。
「はぁ……」
 私はため息を吐きながら教室に向かっている時だった。
「おっ嬢さんっ!」
 突然気色の悪い猫撫で声と供に1人のバカな男に後ろから抱きつかれた。
 その相手はもちろん……
「こんのぉ〜〜っ、バカ野郎〜っ!」
 私は兄貴を引き剥がすと渾身の力を込めた右手を突きだしてボディブロウをお見舞いした。
「グオオッ!」
 見事水月に命中した為に兄貴は両ひざを曲げて蹲った。
「……な、ナイスだぜ、グッジョブだ」
 兄貴は苦しみながらも笑みを浮かべて右手の親指を突き立てた。
 褒めてるんだろうけどちっとも嬉しく無い、ってか何でここにいる?
(何で来てんのよ? 今大変なんじゃないの?)
(い、いや……、オレもそうしたかったんだけど千鶴ちゃんの命令だしさ……)
「え、それって……、ちょっと来て!」
「おいおい、もうすぐ授業始まるってのにデートなんてしてる暇は……」
「違うわよ!」
 私は怒鳴る。
 とりあえず階段の踊り場にやって来る。
 周囲に人気がいないのを確認すると兄貴に登校した理由を訪ねた。
「ああ、塩田ちゃんの事だぜ」
 やっぱりね。
 私は今朝起こった事を話した。
「あの子が言ってた裏切った友達ってお前の事だったのか」
「べ、別に裏切った訳じゃ……」
「分かってるよ、あの子の勝手な思い込みだろ?」
「思い込みって言うか、意見の食い違いって言うか」
「ったく、千鶴ちゃんも何考えてんだか……」
 そう言えば里中先生が言ったって……
 里中先生はつかみどころがないけど、今回の糸が分からない。
「だとしてもセイヴァー・エージェントだなんて…… 兄さんは改造人間だから良いとしても、塩田さんは普通の女の子よ」
「……だな、まぁサイモンに頼めば改造人間にしてくれるけどな」
 否定できないのが凄く恐かった。
 あの人なら頼んだら喜んでやりそうだ。
 そう考えていると予鈴が鳴った。
「さて、じゃあオレは行くぜ」
「授業受けるんじゃないの?」
「オレがここに来たのは塩田ちゃんを見張る為だ、それにオメガの出所が分かり次第でかけなきゃいけないからな」
 兄貴は微笑する。
 確かに今回は非常時だし、授業中に連絡が来て抜けだそうものならかえって怪しまれる。
「心配すんなって、学校にはいるから」
「誰も心配なんかしてないわよ、ただ……」
「ただ?」
 正直話ずらかったけど、私は間を置いて兄貴に訪ねた。
「兄さん、私がセイヴァー・エージェントになりたいって言ったらどうする?」
「はぁ? 止せよ、危ねぇぞ」
 兄貴は顔を顰めた。
 やっぱり、思ってた通りの答えが返ってきた。
 不破さんなら絶対『ヒロインが戦いに参戦するのは王道中の王道』とか言って喜びそうだけど……
「あのな、オレがお前にセイヴァー・ブレスをやったのは、別にお前をセイヴァー・エージェントにする為じゃないんだぜ、お前だって恐いの嫌だろ?」
「そ、そうだけど……」
「塩田ちゃんに何言われたか知らないけどな、オレはオレでお前はお前だ、好きにやりゃ良いんだよ」
 それだけ言うと兄貴は階段を下りて行った。 
 それから教室に戻るとホームルームが始まった。
 
 それから時間が過ぎ、1組は移動教室になった。
 廊下を歩いてふと窓の外を見ると体操着姿の塩田さんが猛々しい顔で歩いていた。
 同じ授業を受けるのだろう、体操着姿の女子生徒達はいつもは相手にしないが、今回はまるで猛獣でも来たかのように怯えながら彼女から離れていた。
 今の彼女を兄貴はどこかで見てるんだろう、見回しても兄貴の姿は見えなかった。