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しっぽ物語 10.青ひげ

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 Lが周りに侍らせる女性の数は、子供が生まれる前と後で格段に違う。日に日に母親としての強さを持ち合わせるようになった妹の傍には、約束どおり近付いていない。妹も、血縁者の優しさを以って彼を無視し続けた。


 叩きつけられるようにして開かれた扉の外から、冷たい空気が流れ込む。
「何だよ、一体」
 父親そっくりのがなり声を轟かせ、Fはずかずかと現実と感傷の間に足を踏み入れてきた。
「こんな高いとこにオフィスなんか作りやがって、上ってくるだけで一苦労だ」
「どこにオフィス作ったところで、仕事の報告なんか来ないだろう」
 椅子に腰を据えなおし、Lは鼻を鳴らした。
「働け」
「説教なら帰るぜ」
「そうじゃない」
 幻想から何とか帰還し、Gは張り詰めた空気の間に手の中の紙を差し出した。
「これのことなんだが、心当たりないか」
 猿のようなすばしっこさでひったくったFは、初めてクロムハーツのサングラスを指先でずらした。
「ひどい言いがかりを付けられてる」
大きな瞳は律儀に紙を左右に往復しているが、動じている様子は全く見られなかった。明らかに格下だと考えるGだけではない。Lの懇願すらも完全に無視し、わざと時間をかけて字面を追う。
「ガセに決まってるだろ、ったく」
 ようやく口を開いたのは、読み終わった紙をくしゃくしゃに丸め、父親のデスクに投げ返したときだった。
「なんだよ、親父。真っ青だぜ」
 これは母親からそのまま受け継いだ、悲しさと冷たさが入り交じった動きで、唇がつりあがる。
「息子のこと、信用しないって」
 組んだ手の甲に顎を乗せ、突き刺すような視線を向けていたLは、やがて諦めたように息をついた。
「本当だな」
「こんな女、知らねえよ」
 馬鹿にしたような顔で顎を持ち上げる。
「不自由してないからな」
 明らかに気分を害したと分かる尊大な面持ちで、Lは息子を見上げた。
出会いがしらにぶつける目つきはどちらも強烈で、悪辣だった。だが、じっと覗き込めば分かる。色こそ違えど、その虹彩の奥で輝いている源は、虚脱だった。
長いこと睨みあう親子は、怒りながら、諦めながら、そして怯えながらお互い探っている。


「事実無根だと、記者の方には返しておく」
もどかしいものでしかない親子の絆を断ち切るため、Gはわざとらしく手を振った。