アイラブ桐生 第4部 49~50
「・・・・すっかりと、道草をしてしまいました!」
右腕にぶら下がった「おちょぼ」は、まだ息をきらしていました。
(すっかり睡蓮で、興奮などをしてしまいました・・)と、
あどけない笑顔を見せています。
二人が、本来の天王山のハイキングコースへ戻ったのは、睡蓮の間から、
1時間あまりも経過した後のことでした。
「ずいぶんと、熱心にみていたね。」
「なぜか、故郷の蓮池のことなどを思い出しておりました。
田舎でもあんな風に、やっぱり綺麗に咲いていました。
たいへんに、懐かしい風景です。」
今日は『おちょぼ』から、祇園の言葉は出てきません・・・
やはり今日の「おちょぼ」は16歳のどこにでもいるような、
ただの少女のようです。
右腕にぶら下がった『おちょぼ』は、片時も私から離れようとはしません。
意外なほど人の姿の少ない登山道の様子が、『おちょぼ』の行動を、
さらに大胆にさせました。
ふいに右手を離した『おちょぼ』が、私の腰へその手をまわしてきました。
驚いて『おちょぼ)を見つめると、そこには照れくさそうで、
かつ悪戯そうな目が待っていました。
「どなたもおへん。ええでしょう?」
山荘美術館を、
ぐるりと半周するように回り込んで登っていくと、
宝積寺側から来たもうひとつの登山道と合流をします。
そのままさらに坂道を先へ進んでいくと、
やがて青木葉谷の広場へ出ます。
ここからは眺望が一気に開けていて、八幡市や枚方市をはじめ、
さらにその先には、遠く生駒の山々までも鮮明に
見てとることができました。
この広場の先へも、綺麗に整備された登山道が伸びています。
まもなく山崎合戦の碑が見えてきました。
そこにあった旗立展望台から覗きこむと、見渡す限りの京都の町並みが、
すべて一望のもとに、私たちの足元から大パノラマとしての
ひろがりを見せてくれました。
たしかに此処は、お千代さんが言っていた通りに、
「おちょぼ」が、ミニスカートでも歩ける山道です。
作品名:アイラブ桐生 第4部 49~50 作家名:落合順平