アイラブ桐生 第4部 49~50
さらに頂上へ向かって、山道を進むにつれ、
周囲には、良く整備された竹林が現われてきました。
嵯峨野に良く似た雰囲気を持ち、天王山のもうひとつの
「顔」としても名高い竹林です。
しかし嵯峨野のような人々の賑わいは、ここにはありません。
山道を行きかう人が、あまりにも少ないことにも、ここでも驚きました。
ここまで歩いてきた道のりで、行き会ったのは、
おおくても5~6組のハイカー達だけです。
竹林の中を歩く人影のすくない登山道は、さらに奥へ向かって
細く曲がりくねりながら伸びていきます。
ひと組のハイカ―をやり過ごした「おちょぼ」が、
「ええですかぁ」と、クスリと笑ってから、また私の
右腕にぶら下がってきました。
歩き始めてから一時間あまりで、天王山の頂きへ着きました。
山頂広場と頂きを示す標識と、それを示す看板がありましたが
木々が大きく茂りすぎているために、ここからは、
まったく下界を眺望することができません。
しかし天王山ハイキングコースの本当の美しさは
実はこの先に待っています。
尾根伝いに小倉神社へ向かうその下り道で、
美しさに満ちた竹林が私たちの到着を、待っていてくれました。
あらためて私たちの目の前に現れた、大きな竹林の様子は、
今度こそ、まちがいなく嵯峨野そのもの景色でした。
風が通りぬけるたびに、さやさやと竹の葉がささやきます。
木漏れ日が、あくまでも柔らかく、静かに足元の
地面できらめいていました。
「おちょぼ」が、大きな帽子を脱いで、
長い髪をなびかせながら楽しそうに歩き始めました。
見ている目の前で、最高級の笑顔を見せた「おちょぼ」が、
これ以上はないだろうというほど身体を翻すと、しなやかに、見事に、
くるりと一回転を見って見せました。
(竹林の・・・・妖精だ。)
しなやかすぎる『おちょぼ』の身のこなしは、その先も続いていきました。
それはまるで竹林の中で楽しく踊っているミニスカートの妖精、そのものにも見えました。
作品名:アイラブ桐生 第4部 49~50 作家名:落合順平