アイラブ桐生 第4部 49~50
「なぁに・・・お父さんも、最後の抵抗だ。」
そんな源平さんの様子を横目に見ながら、
お千代さんは相変わらず、カキツバタの書き込みに専念をしています。
三度のご飯なんか食べなくも、人は全然平気なのにというのが
いつも口癖の人が、この頃は、源平さんの好物ばかりを、
毎日丹念に作リ続けています。
外で娘さん達と会うことも止めて、いつの間にか若い人たちとの接点は、
もっぱら私が、連絡係としてこき使われていました。
熱燗を間に置いて、二人で差し向かいで飲んでいますが、
まだまだお互いに、先の見えない手さぐり状態のままのようです・・・・、
二人して碌な会話もせずに、酒だけをしきりと酌み交わしながら「あ~」と、
「う~」だけをひたすら、繰り返しています。
・・・大丈夫なのでしょうか。この二人は・・・・
京都線の山崎駅を下り、ぐるりと回りこみながら踏切を渡ると
正面に、天王山登り口の石柱が立っていて、
ハイキングコースへと続く石畳の坂道が始まりました。
道中にはアサヒビール・大山崎山荘美術館などもあり、
その案内看板も見えています。
雨は降らず、結局、すこぶるの好天に恵まれました。
惜しげもなく白い脚をさらけ出した、
ミニスカート姿の「おちょぼ」は、どう見てもその辺に屯している、
普通の高校生たちと同じにようにも見えました。
今日は、白粉も紅もつけていない、ただの16歳の素顔です。
浴衣や着物姿ばかりを見慣れてきた私の目から見ると、
まったく別人に見えてしまうほど、
洋服が似合う「おちょぼ」です。
「回り道していきましょか。」
「おちょぼ」に手をにひかれて、
そのまま山荘美術館の方面へ向かいました。
急な山の斜面に沿って登っていくと、うっそうとした深い緑の向こう側に、
美術館らしい建物の屋根が見えてきました。
その行く手を遮るように、突然、木々の間から岩肌が現れます。
岩肌に沿って少し歩くと、時空の入口のような
トンネルが待っていました・・・
ひんやりとするトンネルを抜けた瞬間に、
いっぺんに視界が開けて、きわめて手入れの行き届いた、
洋式の庭園が現れました。
野外彫刻が、広い空間のあちこちに置かれています。
広い庭と点在する彫刻の織りなす風景が、
英国風の山荘美術館とほどよく調和をしています。
ウサギの彫刻を見つけた「おちょぼ」が、
大きな歓声を上げました
「不思議の国のアリスみたい!」
作品名:アイラブ桐生 第4部 49~50 作家名:落合順平