アイラブ桐生 第4部 49~50
初夏に入った頃、「おちょぼ」が
ハイキングに行きたいと言い出しました。
小春姉さんから「とても素敵な、お勧めの「ハイキングスポット」
とやらを聞いてきたので、私と二人で行きたいからと・・・・
是非にと言って譲りません。
雨が降らなかったら付き合いますが、
という条件付きで、今月最後の日曜日に、天王山まで
出かける約束をさせられてしまいました。
天王山は、天正10年におこった山崎の戦いで、
天下統一を成し遂げた豊臣秀吉が明智光秀を破ったことでも
良く知られている、古戦場です。
大阪と京都の境に位置していて、古くからの名だたる歴史と共に
明媚な自然にも存分に恵まれている山里です。
勝負を決める分岐点のことを「天王山」といい、
その勝負のことを「天王山の戦い」と呼ぶ語源ともなったという、
言われの場所です。
「今日は、春玉ちゃんにとっては、初めての天王山です。
はい。とても綺麗にできました」
お千代さんが、娘さんの衣装を使って、
「おちょぼ」をハイキング用の普通の女の子に仕立てくれました。
しかし、その恰好を見て腰が抜けるほどに驚ろきました。
にっこりと笑って登場した「おちょぼ」は、
はるか膝上のミニスカートです。
まぶしいほどに白い脚が、これでもかというように輝いていました。
さが、山歩きにしては、大胆すぎるともいえる
服装そのものです・・・・
「大丈夫です。
ハイキングと言っても、
天王山は山崎の駅から小一時間くらいの山道ですから。
道中には、これといった急勾配などもありません。
春ちゃんなら、これで充分歩けます。
第一、春ちゃんは、とっても綺麗な足をしてるだもの。
たまには出してあげましょう、
殿方にも、目の保養になりますからね。
うっふふふ」
それからもうひとつ、
これも大切な必需品ですと言いながら、
つばが大きく、被ると顔全体まで隠れてしまいそうな
帽子を取り出しました。
「これは、昔、小春さんも使っていた
とても便利な魔法の帽子です。
舞妓さんが、陽に焼けたりしたら大変です。
それともうひとつ、
万一の時にも強い味方になります。」
なんのことだろうと、すこし不思議な気がしました。
お千代さんからお弁当を受け取り、
さあ出かけようという矢先になってから、今朝は
ご機嫌の様子の源平さんが、邪魔にならないから持って行けと
言いながら封筒を手渡してくれました。
最近の源平さんは、娘さんが戻ってくると、とたんに不機嫌となり、
「おちょぼ」が来ると上機嫌になります。
作品名:アイラブ桐生 第4部 49~50 作家名:落合順平