私の好きな人
結局、星野くんと直に会えたのは結婚式の二週間前。休日の午後の喫茶店に、笹野くんはいつもの学生みたいなスタイルの私服で現れた。髪も鞄も靴もきちんとして、清潔な洋服を着て。彼が汚れているものを着ているのは見たことがない。笹野くんは女の子みたいに清潔だ。私にはとても好ましいそんな所も、私以外の大半の女の子には男性としてみてないと一蹴されてしまう。
「ごめん。遅れた?」
入り口から辺りをきょろきょろと見渡して、テーブルについた私の姿を見かけて駆けてきた笹野くん。私は彼のそんな様子が見たくて、いつも待ち合わせの三十分前には到着している。
「大丈夫だよ。まだ時間前だから」
「良かった」
久しぶりにみた星野くん。少し痩せた? 華奢になって余計に女の子みたい。
「えっと、アイスコーヒーを下さい」
星野くんが近寄ってきたウェイトレスさんを見上げて言う。その横顔が愛おしいなぁっと思う。大人なのに子どもみたいに清潔で。頑張って直したのだろう寝癖が少し残っているのもひどく可愛い。
「相変わらず忙しいの?」
「うん。でも、ちょっと落ち着いてきたんだ」
「ちゃんと休んでる?」
「今はなかなかだけど、来月になったら週一は完全に休める予定だよ」
「週一って大変じゃない」
「でも、皆やってることだから」
「無理しちゃ駄目だよ」
「うん。ありがとう」
社交辞令みたいに受け取って星野くんはいつものように微笑む。
こんな時、私が星野くんの恋人だったらきっともっと心配したり、干渉したりして、星野くんももっと私の話をちゃんと聞いてくれるんだろうなって思ってしまう。星野くんの側にいて、彼を見守る一番になりたいと思っているのに、私はいつまでも彼の周囲をぐるぐると回る衛星のようだ。いつまで経っても核心部分には到達しない。
「結婚式、楽しみだね。キレイだろうな、さやさん」
「うん。私達も頑張らなきゃね」
「そうだね。頑張ろう」
笹島さん達からきた当日のスケジュールを二人でチェックして、自分達の仕事を確認する。そんな中でも私は真剣な星野くんの顔を覗きみる。そんな事に彼は全く気づかない。
「すごいしっかりスケジュール練ってくれたんだね」
「司会の笹島さんの方が好きみたいだよ、こういうの。お祭り人間っぽい感じの人だから」
「そうなんだ。助かるね。二人に会うの、とうとう当日になっちゃったな」
「人見知らないか心配?」
「うん」
「大丈夫、私がいるでしょ」
「そうだね」
同意はしたものの全く不安の拭えていない感じの星野くんの姿に胸が痛む。私じゃ彼の力にはなれないんだなぁってまざまざと思い知る。
「大丈夫だよ。話しやすいいい人達だから」
「そっか。うん」
誰よりも星野くんの力になりたいと思っているのになれない私は何て悲しい生き物なんだろう。せめて、もう少し頼りにしてくれたら、私は星野くんのために何だって出来るのに……。
「当日、頑張ろうね」
「うん」