私の好きな人
星野くんから連絡があったのは、顔合わせの翌日。土曜日の昼間の事だった。
「ごめん。どうしても抜けられない仕事が入っちゃって……連絡も出来なくて本当にごめん」
電話口でひたすら頭を下げてる様子の星野くんに昨夜の様子を少し話して、その後、私達は二次会の進行について話し合った。
「招待状の手配、僕がやるよ。昨日のお詫びもあるからさ」
「大丈夫? 忙しいんじゃないの?」
「平気、平気。任せて」
星野くんの「平気、平気」はだいぶ信用ならないと経験で知っている私は「私がやってもいいよ」っと繰り返したが星野くんは頑として譲らなかった。
「ほら、ようちゃんには他の幹事さんとの連絡とかもお願いするからさ」
「それは別にいいけど……本当に大丈夫?」
「大丈夫だって。僕を信用してよ」
信用してないわけじゃないけど、星野くんは無理をして頑張っちゃうからなぁ……。
心の中だけで呟いて、私は招待状を星野くんに任せることにした。
「他の幹事、笹島さんと北村さんだっけ? どんな人だった?」
「どんなって……笹島さんは軽い感じかな。北村さんはしっかりした感じの人だったよ」
「へぇ。健が二人ともイケメンだよって言ってたからさ」
「イケメン? うーん、そうかなぁ……確かに二人とも女の子にはもてそうなタイプかな」
「そっか。なんか緊張するよ」
「何を言ってるの。大丈夫だよ」
星野くんには私がついているでしょ。
「メインの司会も笹島さんの方がやってくれるって話だし、私達は裏方で頑張ろう」
「うん」
答えた途端、星野くんは向こう側で大きな欠伸をした。
「ごめん」
「寝不足? 寝ちゃえば?」
「うん。持ち帰りの仕事があるから、それが終わったら昼寝する」
「あんまり無理しないようにね。星野くん、何でも一生懸命だから心配だよ」
「ありがとう。ようちゃんにはいつも心配ばかりかけてるね」
「何言ってるの。友だちでしょ」
冗談めかして言うと星野くんが笑ってくれた。
友達でしょなんて、嘘なのに……。私は嘘つきなのに……。
「じゃあ、またね」
「うん」
通話が切れて、電話口から星野くんの気配が消える。いつもこの瞬間が一番寂しい。星野くんの日常からきれいさっぱり私が消えてしまう瞬間。きっと、この後、星野くんは私の事など思い出しもせずに仕事を片付け、お昼寝して、夕飯を食べて、お風呂に入って……いつものように普通に一日を終えるのだろう。今日以外の日々と同じようにして。
私の日常には星野くんが溢れているのに、星野くんの日常に私はいない。
それをまざまざと思い知る。こんな瞬間が一番寂しい。