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有島そうき
有島そうき
novelistID. 37034
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私の好きな人

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 星野くんといない時だって、私は彼のことばかりを考えている。
 本屋の店員さんがちょっと小柄で可愛い女の子だったりしたら、「ああ、この子は星野くんの好みだな」とか、「星野くんとこの子を出会わせたら、星野君は途端に恋に落ちてしまうんじゃないか」とか、「星野くんはこの子にどんな言葉で愛を囁くのだろう」とか、ありもしない、起きてもない事を色々と考えて、私は一人、勝手に可愛い店員さんを妬んだりしてる。
 私が星野くんと会えるのは良くて一ヶ月に二度。下手をすると半年に一度ぐらい。私から連絡したり、彼から連絡が来たり、会い方は様々だけど、それこそ社会人同士のいい友達な私達。
 そう、ずっと前から分かってる事。星野くんにとって私はただの友達の一人で、頻繁に連絡を取るような相手じゃない。
 でも私は、星野くんが好きな子には毎晩のように電話してしまう事を知っているから、そんな事にすら毎回毎回傷ついてしまう。何ヶ月ぶりかにかかってきた電話に、その電話口の星野くんの変わらなさに、私はいつも傷ついては自分が星野くんの『大事な子』ではないことを再認識するのだ。
 それならそれで私なんかぞんざいに扱ってくれればいいのに、妙な所で私を女性扱いするから、星野くんは性質が悪い。二人で歩いている時、いつも車道側を歩くのは星野くんだったり、エスカレーターで前後になったら、登りは後ろ、下りは前にいるのはいつも星野くんだったり、私の方が背が高くて力だってあるだろうに重い荷物は絶対に私に持たせてくれなかったり。恋人にだってそんな風に扱われた事ないってな風に星野くんは私を扱う。
 好きでもないくせに。
 私は毎回、星野くんの優しさにそんな風にへそを曲げるのだが、同時にそんな彼にどうしようもなく惹かれてしまうのだ。
 女の子が好きで、女の子に優しい星野くん。私の大好きな大好きな星野くん。

「それでね、葉子に頼みたいんだけどいいかな?」
 友だちとの電話の最中、すっかり気持ちが星野くんに飛んでいていた私は、友だちのそんな言葉でようやく自分の部屋、今の時間に戻ってきた。
「頼みたいって何を?」
「だから、私の結婚式の二次会の司会を」
「ええっ、無理だよ」
「大丈夫よ。そんなの任せられるの葉子しかいないよ。ね、お願い」
「ええっ、でも……」
「お願い、葉子。ちゃんとアシスタントつけるから」
「アシスタント?」
「そう。健の方から星野くんにも声かけてるんだ」
 星野くんの名前に体温が一気に上がる。
「星野くん? 星野くんも司会やるの?」
「うん。葉子が一緒なら安心だからさ」
「そっか」
 星野くんと一緒なら……そんな考えが頭によぎる。
「お願いできる?」
 そんな私の気持ちを知っているかのように畳み掛けてくる彼女は大学時代からの私達の友だちだ。同じ学科の同じサークルの友だち。
 大学時代、私と星野くん、彼女、彼女の旦那になる予定の健くんは同じ映画研究のサークルにいた。同じ学科という事で自然に仲良くなった私達四人の中で、彼女と健くんは学生時代にさっさとくっついて、今年の春にめでたく結婚する事になった。
「星野くんと一緒なら」
 私は渋々といった体を作って、友人の提案を了承する。彼女は私の気持ちを知らない。
 星野くんを含めて、私のこの気持ちを知っている人はこの誰もいない。大事に大事に守ってきたんだ。誰にも見せないし、誰にも触らせない。だから、当の星野くんだって永遠に気づかない。
「二次会、彼の会社の同僚とかにも協力してもらうからさ。気になる人がいたら言ってよ。紹介するよ」
 友人が軽口のようにいう。私は心の中で「星野くんが側にいたら他に気になる人なんて誰もいない」って呟くけど、
「うん。ありがとう。その際はよろしく」
 当たり障りのない返事を友人にはしておく。
「ありがとう。じゃあ、あとで詳細をメールするね」
「うん」
「星野くんとの連絡は葉子に任せていいよね?」
「分かった」
「じゃあね」
「じゃあ」
 電話が切れる。
 星野くんに電話する用事が出来た。私は携帯を放り出して万歳の姿勢でソファに飛び込んだ。クッションを抱え込んで声を抑えて笑った。
 本当なら毎日だって声が聞きたい。毎日電話して、今日何があったのか聞きたいし、話したい。でも、そんな事をするわけにはいかない。私達は友達だから。毎日電話をかけたり、用事もないのに電話したりは出来ない。だからこそ、こういった用事は大歓迎だ。
 いつ電話しよう。まだ、家には帰ってないかな。今日はお弁当を買って帰るのかな? それとも外食? 誰かと飲んでたりして。星野くんは人一倍気遣いの人だから飲み会、楽しいといいけど。
 そんな風に星野くんの日常を想像してみる。星野くんが乗っている電車を、歩いている道を、毎日を過ごしている家を色々と想像してみる。きっとそこには私が知らない星野くんがいっぱいいるはずで、私はその星野くんを残らず見てみたいと思っている。
 そして、その考えは恋人として星野くんが私の家にいたらっと膨らんで、私は自分の側に恋人としている星野くんを想像してみる。
 女の子にはとことん甘い星野くんだから、きっと恋人には人一倍気を使って色々としてあげるんだろうなぁっと思う。
 喉が渇いてない?とか、何か欲しいものある?とか、もう眠くない?とか、先にお風呂入る?とか……問いかけてくる星野くんを想像する。
 決して、現実には現れないそんな星野くんを想像して、気持ちが沈む。空しくて、切なくなってくる。
 そう、星野くんは私の恋人にはならない。この先ずっと。絶対に。それだけは揺るぎない事実だ。私達はいい友達でそれ以上はない。分かってるのに、私は時々、幸せな妄想をしては落ち込んでを繰り返す。
 学ばない私。星野くんは決して、私を選んだりしないのに。
作品名:私の好きな人 作家名:有島そうき