散々元気出す定食 (グランマ付き)
「実はそうなんだよ、おばあちゃん、俺、単身赴任でね、独り暮らしなんだよなあ。こんな桜が散る頃は、ちょっと寂しいかな」
高見沢はついつい弱音を吐いてしまった。そして、さらに。
「景気は一向に良くならないし、政治は前へ進んでないし、税金は上がりそうだし、年金はどうなるかわからないし・・・」
「お兄ちゃん、そうなのかい。だけど、男の子だからね、背筋を伸ばして、まっすぐ歩くんだよ」
おばあちゃんが心配そうに高見沢の手を握ってくれた。これで高見沢は目が醒める。
「俺、元気出して、頑張るよ」
「お兄ちゃん、そうしなさい。また気が向いたら、この『散々元気出す定食』を食べに来なされや」
おばあちゃんはこう言って、高見沢に微笑んでくれた。
「ああ、おばあちゃん、そうするよ。だけど、ごめんなさいね、高級魚の『ぐじ』を頂いて、その上に、俺・・・散々・・・愚痴ってしまっ・・・・・・」
高見沢はここまで言って、ハタと気付いた。
「おばあちゃん、『散々元気出す定食』の『散々』て、おばあちゃん相手に『散々愚痴る』ってことだったの? それを聞いてもらうことも組み込まれ定食だったの?」
「その通りだよ」
おばあちゃんが澄ましている。そして、高見沢はさらに気付いた。
「で、おばあちゃん、焼き魚の『ぐじ』って、『愚痴』のことだね。これって・・・オヤジギャグ?」
「あらっ、お兄ちゃん、これは・・・ババギャグよ」
おばあちゃんはこう言い放って、「あはははは」と大笑いする。そして、その後、おばあちゃんは高見沢の目をしっかり見て、言ってくれた。
「お兄ちゃん、もうこれでスカッとしたろ。『散々愚痴って、元気出す定食』を、アタイがおともさせてもらって、一緒に美味しく食べたんだから・・・、さっ、これで元気を出して、頑張りなされや」
「おばあちゃん、ありがとう、俺、元気出すよ」
高見沢は深く頭を下げた。そして、「おばあちゃんも元気でね、また来るからね」と約束し、「ニッポンイッチャン食堂」から出た。
作品名:散々元気出す定食 (グランマ付き) 作家名:鮎風 遊