散々元気出す定食 (グランマ付き)
近くの公園、そこは暖かな春風に吹かれ・・・花吹雪。
いくつもの淡いピンクの花びらがひらひらと青空に舞う。そして、その下で、幼い子供たちがはしゃいでいる。ほのぼのとした情景だ。
高見沢はそれらを無感情に横目で見て、そそくさと通り過ぎた。
「ラーメンでも食べるか? だけど、ちょっとな・・・ブランチとしては安っぽいし、ありきたり過ぎるかな」
そんなことを自問自答しながら、春の風に誘われ、しばらく当てもなくふらりふらりと歩く。そして街角に、風変わりな名の看板が目に入ってきた。
「ニッポンイッチャン食堂って、なんだよ、これ? 日本で一番の食堂ってことか?」
高見沢は急に興味が湧いてきた。
建物は年代もの。黒瓦の屋根に深紅(しんく)の外壁、そして正面に立派な看板がある。しかし、すべてがくすんでいる。どうも昭和の食堂の雰囲気だ。そのためだろうか、どことなく懐かしい。
高見沢はここでブランチを取ることを決めた。そして、すり切れた暖簾(のれん)を手でかき分け、軋(きし)む引き戸を引いて中へと入った。
店内は大きめのテーブルが整然と並び、まさに大衆食堂。その割にしては小綺麗だ。
「いらっしゃい!」
元気はあるが、少ししゃがれている。そんな声が掛かってきた。高見沢はその声の主を見て驚いた。
年の頃、そう、七十歳は越えてるだろうか、おばあちゃんがニコニコと笑っていたのだ。
作品名:散々元気出す定食 (グランマ付き) 作家名:鮎風 遊