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アイラブ桐生 第4部 47~48

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 「おおきに。
 春玉がいつもお世話になってはりますぇ。
 よろしおしたなぁ~、お兄さんに美人に書いてもろうて。
 ええ絵でおすなぁ、おはるちゃん。」


 すでに「おちょぼ」は、見つかった瞬間から固まっています。
まるで、悪戯を見つけられた子猫のようです。
小春お姉さんが腰を低くして、私の耳元で、
そっとささやきをはじめました。



 「こん子は、変った子ですから、
 扱いぶりに、ほんま大変どす。
 中学の修学旅行で来いはったときに、祇園で私を見立てから、
 自分も舞妓になりはると決めたそうです。
 すぐにでもなりたいといいはって、
 ずいぶんと駄々もこねはりました。
 そらあかん、物事には順序というものがありまして
 ちゃんと学校を終わってから改めてお越しやすうと、
 お願しをしました。
 はい、わかりましたと、気持ちよく返事をしましたので、
 やれやれと安堵をしておりましたら、
 2月の半ばに、前触れもなしに、
 またこの子が突然あらわれました。
 この子には、2度も3度もびっくりさせっぱなしどす・・・・」



 小春姉さんがにこりと笑って、流し目で春玉を振り返っています


 「中学校を卒業しはる、その直前のことどす。
 うちの写真を一枚だけ持って、祇園の検番にかけこんだそうどす。
 どないしても、とにかくこの人に会いたいと言って、
 検番で大騒ぎをしはるんどせ。
 びっくりして、屋形のおかあはんと二人で、
 とにかく検番へ飛んで行きました。
 お預かりをするにしても、今後のことなどもありますので
 親ごさんの承諾やら、手続きやらが仰山にありますので、
 後日また、あらためて親御さんらとお越しくださいと、なだめて、
 またその日は帰しました。
 またやれやれと気を緩めていたら、
 もう、次の日には、今度はお母さんと二人で屋形まで
 また、やってきはりました。」


 「おちょぼ」が顔を真っ赤にしたまま、
俯いてイヤイヤをしています。



 「はぁて、ほんまに困りはてました。
 屋形のおかあはんが、祇園というものは行儀作法も、
 さらには格式も高すぎて
 現代っ子ではなかなか耐えられまへんと何度も、
 何度も説明をしました。
 しかし、こん子は途方もなく頑固者です。
 先方のおかあさんも、もうこの子は何が有っても舞妓になると
 小春姐さんのような、綺麗な芸子になりたいと、
 何を言っても聞かないので、もう私も万策尽きました、と、
 おかあさんまで、途方に暮れて泣く始末です。
 しまいには、貴方のせいでこの子が舞妓になりたいと
 いいはじめたのだからその責任を取ってくださいなどと、
 お母さんさんからも責められてしまいました。
 もうそうなると、うちも、屋形のお母さんも、
 まったくもってのお手上げです。
 結局、あたしが責任を持って、
 大事なお嬢さんをお預かりすることになりました。
 ところが、こん子は、どこまでいってもやんちゃです。
 おちょぼのうちから、勝手にあたしの名前から一文字をとって、
 最初から、「春玉」と名のるんどす。
 おかあはんも、こん子は今時、珍しい子だからと、
 今では大のお気に入りどす。
 ほんなわけで、あたしとおかあはんの「箱入り」さかい、
 あんじょうお願いたします。」



 それだけ言うと小春姐さんが、「おちょぼ」を手招きします。
私からは見えないように背中を向けて、なにやら
小声でささやいています。



 「ほなら、気いつけなあきまへんえ、おはるちゃん。
 そしたら、あんじょうお願いしはります」


 小春姉さんはあらためて、にっこりとこちらへ微笑むと、
くるりと背をむけ、風に揺れている柳の葉をひとつずつくぐり抜けながら
ひとつ先の路地へ、颯爽と消えてしまいました。
火照った顔のまま小春姐さんを見送っていた「おちょぼ」が、
元気になった笑顔で振り返ります。



 「たった今、小春お姐さんからは、お許しをいただきました。
 お母はんには、あと一時間ほどお稽古でかかりますからと
 言ってくれはります。
 どこかその辺で、甘いものでも食べながら
 お絵描きをつづけなさいといわはりました。行きましょ・・・・
 ねぇ、ねぇ、ねぇったら」


 なるほど・・・・祇園も花街も、たいへんに粋が似合う町です。
わたしも、実に粋な小春姉さんのファンになってしまいそうです・・・・