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アイラブ桐生 第4部 47~48

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 女紅場(じょこうば)と言うのは、
明治の初めに作られたものです。
女子に裁縫や料理、読み書きなどを教えるための、学制外の施設です
八坂女紅場は明治5年につくられたもので、
長い歴史を誇る同志社女子大学も最初は
「同志社分校女紅場」と呼ばれていました。
その後、全国の女紅場は、役目を終えて閉鎖をされていきましたが、
八坂女紅場だけは、祇園甲部の芸事の研修所として
残りそのまま今日に至っています。


 3月も半ばをすぎると、一日ごとに温かくなります。
いつものように高瀬川の川沿いでスケッチをしていたら、
お稽古帰りの「おちょぼ」が、
「ごきげんよう」と顔を見せてくれました。

お稽古の順番が早く済み、今日は少しだけ時間があるんどす・・・
と、嬉しそうに笑っています。
お天気も良く、せっかくだからすこしスケッチさせて、とお願いすると、
「ハイ。どうぞ」と快く笑顔で応じてくれました。



 ひとつにまとめて縛っただけの長い髪が、
着物の襟に沿って、
「おちょぼ」の胸元まで、ゆったりと揺れていました。
舞妓の結う「われしのぶ」という髪形は、
すべて地毛で結うのが基本です。
「鬘(かつら)」が許されるのは、
晴れて芸妓になったときからです。



 「おちょぼ」は笑顔でこちらを見つめながら、
両手は今日のお稽古の舞いの仕草を思い出しています。
思案をしながらそれでも、ひらひらと
舞い続けています。


 「お姉さん方が踊ると、綺麗にしっくりおさまりはんのに、
 なんでうちだけ出来へんのやろ。
 うちは、やっぱり、不器用やな・・・」


 不満そうな顔のまま、手にした舞扇は、
さらにひらひらと、行く場所を見失った蝶々のように
舞い渋っていました。

(うん、たしかに春ちゃんは、
どちらかといえば、不器用かもしれないな・・・)

その時でした。

 「あら~、こちらはんが半玉ちゃんの、
 いけずの兄さんどすかぁ?」



 突然背後から、祇園なまりで語り掛けられました。
振り返るとそこには、お姉さん芸妓にあたる小春姐さんが
にこやかに立っていました。
軽く会釈をされてしまいましたが、この人すこぶるの美人です。
薄い化粧と紅だけをひいていますが、
その口元が実にドキリとするほど妖艶です。
見つめられただけで背筋が震えるほど、
目元の涼しさと優しさが印象的な女性です。