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アイラブ桐生 第4部 47~48

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 「着いて来い」と源平さんに言われ、
生まれて初めてお茶屋さんへ上がりました。
表通りからは、やや後退した形に作られているのが、
お茶屋さんの間取りの特徴です。
すべての客室は、廊下と坪庭付きの吹き抜けで区分をされています。
「踊り場」と呼ばれる板敷きのスペースが造られていて、
文字通り芸妓や舞妓さんが
お客さんに踊りを披露する舞台として使われます。



 お姉さん芸妓の末席に座った「おちょぼ」は、
見るからに緊張をしています。
初めてお座敷にあがったこちらにも、それは同じことがいえました。
お姉さん芸妓にあたる小春さんもそれ以上に、
「おちょぼ」のことが心配で落ち着きません。
こちらも、妹舞妓の初披露に、
最大限の緊張をしていました。


 そう言う意味では、
今日は居合わせた全員が、みなさん共の初舞台です。
はじめての舞妓さん姿を見せた「おちょぼ」が、
余りにも初々しかったことだけは覚えていますが、
それ以外の酒の味も料理も、まったく私の記憶には残っていません。
格式と歴史を誇る京都のお茶屋さんというものは、それほどにまで
初めてのお客を、極度に緊張させてしまいます・・・・


 晴れて「見世出し」の日になると
男衆(おとこし)の晩酌で、お姉さん芸妓と固めの杯を交わし、
正式な舞妓になります。
当分の間はお姉さん芸妓に連れられて、
お座敷を回ることが仕事になります。
その間に、お茶屋の女将やお客さんに顔を
覚えてもらうのです。


 それから一カ月余りが過ぎてから、
「おちょぼ」が学校に通い始めました。

 芸妓のもうひとつの仕事が、「にょこうば」と
呼ばれる祇園の学校へ入る事です。
正式には、「八坂女紅場(やさかじょこうば)学園」と呼ばれています。
授業科目は実に広範囲です。
舞・能楽・長唄・常磐津・清元・地唄・浄瑠璃・
小唄・鳴物・茶道・華道・絵画などなど・・・
最近になって、舞・鳴物・茶道と三味線も
必須課目になりました。



 毎年、お正月になると始業式がありますが、
普通の学校とは異なり、入学式もありませんが、
卒業式もまた存在しません。
ここには15歳から、上は80歳を過ぎた生徒までが在籍をしています。
舞妓になったその時が入学式にあたり、
妓籍を抜ける時が事実上の卒業式にあたります。



 もちろん、体育祭や修学旅行などは一切ありません。
文化祭にあたるものが、有名な春の
「都をどり」や秋の「温習会」になります。
受業の時間なども普通の学校のように、
毎日決まっているわけではありません。
自分の選択した習いごとが有る時にだけ
出かけていきます。


 時間割や予定表は、
花見小路と検番に有る黒板に表示されます。
稽古の順番も、原則的には早く来た順ですが、
先輩お姉さんが後から来ると気をつかって「お先にどうぞ、お姉さん」と
譲ることなどもあるようです。
こうしたことからも、出たての舞妓さんほど、
稽古には時間がかかってしまいますが、
お姉さん方の稽古を見学することも、
実は大切な稽古のうちにはいるようです。

熱心な舞妓ほど、長いこと見学をしていきます。
見ることも大切な勉強のひとつです。