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アイラブ桐生 第4部 47~48

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 舞が仕上がる頃には、京ことばも板についてきます。
その頃になると、本人とその周囲でも舞妓になるための準備が
本格的に始まります。
まずは、「引いてもらう」お姉さん芸妓を決めます。
早く言えば舞妓の「後見人」です。
お姉さんの名前から一文字をもらい、
デビューの「見世出し(みせだし)」を待ちます。
お千代さんの家に遊びに来る、「おちょぼ」の
春玉(はるぎょく)ちゃんも、ちょうどそんな時期の少女です。



 昔から見れば花柳界のしきたりも、
ずいぶんゆるくなったと言われています。
それでも、修業中の『おちょぼ』は、朝から極めて多忙です。
朝早く起きてたくさんの仕事をこなした後、芸と舞のお稽古に通います。
夕方になればお姉さんの支度を手伝い、
お風呂もお姉さんたちが帰ってきてから入るために、
寝るのは深夜か、夜更けになってしまいます。
たしかに見習い中の「おちょぼ」は一日中が多忙です・・・



 掃除・洗濯・使い走り・屋形のお母さんとお姉さんのお手伝い・
着物の着付け・行儀作法・花街ことば・お稽古ごと、
おまけに屋形で飼っている猫が行方不明になれば、
捜索に走りまわるようにもなります。
現代っ子には想像すらできない、過密で過酷な日程うえに
毎日が修練の繰り返しです。


 つかの間だけ寄りこんで、
お千代さんとお茶を飲みながら語っていくのも
「おちょぼ」にしてみれば、もうひとつ気分転換です。
温かくなり始めたこの頃は、表で下駄を鳴らして駆け回る「おちょぼ」と
あちこちで、よく鉢合わせするようにもなりました。


 「半玉ちゃ~ん、そんなに走るといけんよう。
 こけると危ないから、足元に気をつけるんだよ~。」

 「いけず~(意地悪)。お兄さんは好きません。
 春玉です!!春が半分ではあらしまへん!」


 立ち止まってそう言い張ると、
また元気よく、カラカラと春玉は駆けだしていきます。
この頃から、よく「おちょぼ」のデッサンを
書かせてもらうようにもなりました。
あどけなさばかりが目立っていた少女から、
ほんのりと大人っぽい色気が漂うようになってきたのも丁度、
この頃からだったと思います。


 「おちょぼ」の実地研修も始まりました。
馴染のお茶屋さんで、「お見世出し」前の約1か月間にわたる、
デビュー前の見習いです。
舞妓さんと同じ姿をしていますが、だらりの帯は、
半分だけの長さで、通称を「半だら」と呼ばれます。


 お座敷に呼ばれて、出向いていくわけではありません。
特定のお茶屋さんで待機をしていて、お座敷に出させてもらうだけです。
接客をすることよりも、お姉さん芸妓や舞妓さんたちの指導のもとで、
雑用などをこなすことが主な仕事です。
この時期ではただ、お座敷とお客さんの雰囲気に
慣れることだけが目的です。