鈴~れい~・其の三
二人はゆっくりと歩き出し、やがてその姿は森の奥へと吸い込まれ、見えなくなった。
樹々の間を風が駆け抜けた。野苺の茂みが音を立てて揺れ、石の上の鈴が小さく震え、涼やかな音色を立てた。
その後、木檜藩で柳井小五郎とお亀の姿を見た者はいない。二人の消息は杳として知れなかった。木檜藩主木檜嘉利は二十四歳の若さで隠居、かくして畜生公と領民からその冷酷さを怖れられた稀代の暴君・暗君は歴史から名を消した。蟄居した嘉利は幽閉生活を送り、その六年後、ついに狂ったまま病死、一説には、暗殺されたとも云われている。 (完)