小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

鈴~れい~・其の一

INDEX|4ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

 最初にお香代を犯した男はどうやら晋三郎という男の主人らしい。立て続けにお香代を二度犯した後、今度は晋三郎がお香代を貫いた。まるで飼い犬が主人のお零れを預かるように、晋三郎はお香代の身体を貪ったのだ。
 その後、更に二人がかりで陵辱され、結局、お香代は一刻余りにわたって数度、時間をおいて犯された。あるときは二人の男に同時に輪姦され、あるときは一人ずつによって交互に深々と挿し貫かれた。
 延々と慰みものにされた後、二人の男は一糸まとわぬままのお香代を置き去りにして、いずこへともなく馬で走り去った。
 お香代が緩慢な動作で身を起こしたのは、もう春の陽が傾き始めた頃のことだった。春めいてきたとはいえ、まだ如月の初めのこととて、夕刻になれば風も冷たい。
 冷たい風に向きだしの膚を嬲られ、お香代は身を震わせた。寒さと恐怖と絶望に歯を鳴らし、身を戦慄(わなな)かせながら、ようよう立ち上がる。はぎ取られた着物や、襦袢、腰紐や帯が辺りに散乱している。今日、着ていたのは淡い紅色に小さな梅の花が散ったお気に入りの着物だった。それらを身につけ、歩き出そうとした途端、身体の節々―殊に奥に鈍い痛みが走る。
 身体の表面にも擦り傷や切り傷、乳房や首筋には強く吸われた跡が赤い花びらのようになって残っていた。
 地面の上で全裸にされ、男たちに容赦なく責め立てられたのだ。全くあの二人のお香代に対する扱いには片々たりとも優しさどころか、情のかけらもなかった。ただいっときの獣じみた欲望と平素から積もった鬱屈のはけ口としてお香代を求めたにすぎない。嬲れるだけ嬲り尽くした後は、あたかも使い捨ての玩具を投げ捨てるかのように、その場に放置していったのだ―。まだしも遊女屋で女郎を買う客の方が敵娼に対しては、いささかでもマシな扱いをするに違いない。
 何より、秘められた奥の狭間―これまでは良人小五郎しか触れることのなかった場所が烈しい痛みを訴えている。それらは何より、我が身が名も知らぬゆきずりの男たちに寄ってたかって陵辱された証である。
 一体、小五郎に何と申し開きをすれば良いのだろう。こんな穢れ切った身体を、自分を小五郎はこれまでと変わらず妻として受け容れてくれるだろうか。
 お香代の眼に、新たな涙が湧く。
 男たちに犯されている間中、猿轡をされていたので、助けを求めるどころか悲鳴さえ上げられなかった。が、涙がとめどなく溢れ続け、泣きすぎて眼は赤く腫れ上がってしまってい
る。
 あれだけ泣いても、まだ流す涙が残っているのかと自分でも面妖なことに思いながら、お香代はのろのろと歩いた。
 最早、地面に転がっている駕籠や野苺のことなぞ眼中にも入らない。
 覚束ない脚取りで歩くお香代の頼りなげな後ろ姿を、蜜色の夕陽が赤く照らし出していた。

    

  友の悲劇
     ~無明(むみよう)~

 その朝、お亀は井戸端に立った瞬間、厭な予感に囚われた。既に卯月に入り、桜も咲く時季になってはいたものの、井戸端には遅咲きの椿が一輪、紅い花をつけていた。
 何故だか、この花を見る度、お亀は普段は遠く離れて暮らす友を思い出すのだった。お亀が暮らすのは、親友お香代と同じ木檜藩とはいえ、お香代が良人と暮らす城下よりはるかに遠く、森一つを隔てた小さな村だった。
 この椿は特に遅く咲く品種というわけではない。椿は年が改まってからすぐに咲き始め、更には桜が満開になる春の盛りまで非常に花期が長いのが特徴的だ。
 紅い艶やかな紅色の花は、お香代のふっくらとした形の良い唇のようで、紅い花をつける樹と並んで咲く一方の白い花をつける樹―、この純白の花は、お香代の透き通る膚のよう。
 この美しい親友を、お亀はもうずっと以前から何より自慢の種にしている。お亀の伯父は柳井幹之進といって、ご城下で町道場を経営する道場主として知られていた。二十年前の御前試合では見事、先代のお殿さまの御前で並み居る挑戦者たちをよそに優勝するという輝かしい戦績をおさめた。
 そのときの戦(いくさ)神(がみ)のごとき闘いぶりは今も伝説のように語られていて、幹之進が優勝者に与えられるすべての栄誉―多額の報奨金や藩主の武芸指南役への推挙をすべて断ったということもあいまって、その人柄の清廉潔白さと共に勇猛果敢ぶりは当の幹之進が亡くなってもなお真しやかに噂となって囁かれている。
 お亀の母おつるが幹之進の六つ違いの妹で、この村長(むらおさ)の許に嫁いできたのがもう二十八年も前の昔のことになる。母と父の間には十年もの間、子が授からず、十年目になってやっと生まれたのがお亀であった。母よりひと回り年上だった父は甥―弟の伜に村長を譲り、既に数年前にみまかった。母も父の後を追うように二年前に旅立って、今は一人暮らしだ。
 母が亡くなった時、お亀は十六だった。父の跡を継いで村長となった従兄から嫁にこないかと誘われはしたものの、その求婚は断った。従兄は十歳年上で優しくて真面目な男だが、何しろ、あまりに昔から知りすぎていて、今更良人として見ることはできそうにもないと思ったからだ。
 そんなわけで、お亀は現在、かつては両親や幾人かの奉公人と暮らした比較的広い家に一人で起居している。ただっ広い家に使用人の一人も置かず、時に淋しさを感じないこともなかったけれど、気楽といえば気楽な暮らしであった。
 屋敷―というほどでもないが、とりあえず村ではいちばん大きな家だ―の裏にはささやかな庭があり、井戸もある。その井戸端にふた色の椿が並んで植わっており、白色の方は流石にもう花は終わったらしいが、紅色はまだ時折、花をつけることがあるのだ。
 この二本の樹を見る度、お亀は亡き両親や、離れて暮らす友のことを思うのだった。母はお世辞にも美人とは言い難い女性だった。父にしても、いかつい将棋の駒のような顔をした人で、この二人のどちらに似ても、お亀が器量の点で引け目を感じるようにならざるを得なかったのは明白だ。
 贔屓目に見ても並、辛く点をつければ、どう見ても哀しいかな、並よりは下というのがお亀の容貌だ。唯一の自慢は、父から譲り受けた黒々とした髪と、母に似た肌理の濃やかな白い膚だが、膚の美しさとて、竜胆の花びらを清らかな水に落とした風情のようなお香代の美しさに比べれば、はるかに及ばない。
 要するに、他にあまりにも取り柄がないため、強いて探せば、そこが良いという程度のものである。
 母が十九の歳になるまで嫁にいかなかったのも、その器量のせいには違いなく、やや婚期を逸しかけた頃になって漸く、仲立ちをしてくれる人があって、遠く離れた小さな村の村長に嫁いだ。
 父の方もまた小男であの面体だから、嫁の来手もないままに三十過ぎまで独り身だった。まぁ、母も父も落ち着くべきところに落ち着いたというのが本当のところではあったが、二人は娘のお亀が見ても羨ましいくらい仲の良い夫婦であった。父は母を労り、母もまた良人を大切にし、共に愛し合い必要とし合っているのがよく判った。
作品名:鈴~れい~・其の一 作家名:東 めぐみ