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打算的になりきれなかった一週間

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第十章 真実



右手を部屋の蛍光灯の光にかざす。どうして翔大は、私の手を
握ろうとしたんだろう。一週間だけとはいえ、彼女だから良いと思った?
思わず手を引っ込めたけれど、あれで良かったんだよね。
私は右手を握りしめると、翔大の手のぬくもりを思い出した。大きくて
分厚い手だった。背の低かった父親より大きな手。
「あと三日……」
目をつむる。私は本当に、打算的なまま……。
何を馬鹿なことを。翔大は面白がってるだけで。私にそんな気持ちを
持たれたって、迷惑なはずだ。
……第一翔大には婚約者がいるし!
うん、私、負けない! センチメンタルな気分になんかならない!
「よっしゃ! 打算メモに書いておこう!」
デートの日の夜、私は意気揚々と机に向かった。


次の日の放課後、唯と渡り廊下を歩いていると、いきなり三年生に囲まれた。
助けを求めることも叶わぬまま、グラウンドにある体育倉庫に押し込められる。
扉の前の見張り役を除いて六名。代表はもちろん……坂口先輩。
私はすがりついてくる唯を背中に庇おうとしたが、逆に庇われた。震える口調で
「坂口先輩、もうこういう事は止めてください。中多君に粘着したって、
振り向いてくれるわけじゃない、余計に嫌われるだけなんです!」
「今年の二年は威勢が良いね」
周囲がげらげら笑う。なんという品性の無さ。翔大はずっとこんな奴らに
粘着されて……でも負けなくて……。
えらい。
翔大は、えらい。
「あんた、私にきれい事言ったよね? もう一度言ってみなよ」
坂口先輩はずいと私の前に出る。私は威圧感を感じて後すざった。目が正気じゃない。
「止めてください!」
「うるさいよ、部外者はすっこんでな!」
坂口先輩は唯を突き飛ばす。重ねたマットにぶつかりそうになったが、
他の三年に拘束された。慌てて駆け寄ろうとした私の髪の毛を掴む。痛い。
「……あの女と同じ事をしてやろうか」
「寿絵さんに何をしたんですか」
「別に。ちょっと写真を撮って、ネットに上げただけさ」
言って私に携帯の画面を見せる。映し出された画像に、私は青くなった。
「……もしかして、中多君の噂を流したのも……」
「さあね。この中の誰かだよ。私は知らない。あいつはたくさんの女子の
恨みを買ったから。ははっ、ざまあみろだ」
それは、すでに恋情ではない「何か」。
ああ、この人は狂ってしまったんだ。
翔大を好きだからこそ、狂ってしまったんだ……。
「最低!」
私は吠えた。髪の毛がねじり上げられたけれど構っていられない。今は
胸の方が痛い。
「自分の思い通りにならないからって、翔大も寿絵さんも私たちも、
たくさんの人を傷つけて。あなた最低だわ!」
「言いたいことはそれだけ? ふーん」
どん。突き飛ばされる。私はよろけて跳び箱にぶつかった。ばさりと
ポケットからメモが落ちる。中多ファンクラブの一人がそれを拾った。
「返して!」
「何これ。『打算メモ』……?」
ぱらぱらとめくる。そこにはいろんな事が書かれてあった。翔大との出会い、
マックでデートしたこと、翔大の将来のこと、ネットで苛められたこと、
宣戦布告、そして……昨日の、楽しかった一日のこと……。
「あんたたちに見せるもんじゃないの! 返してよ!」
「先輩に対してその口の利き方は何だよっ」
「あんたたちに先輩面されるいわれ無いっ。先輩ってのは、ただ年を
食ってるだけの人の事を指すんじゃないんだから!」
「坂口ィ、こいつ生意気だよ」
「剥いちゃえ」
下品な笑い声が体育倉庫にこだまする。私は唇を噛みしめた。ああ、唯だけは
逃がさないと……唯だけは……。
その時。
扉ががらりと開いた。三年生たちがざわめく。
「裕美、尾上!」
「翔大っ」
翔大が立っていた。緊迫した面持ちで。私たちを見ると、ほうっと息をつく。
走ってきたのか、肩が揺れている。
「良かった、無事だった……」
本当にくしゃくしゃの笑顔でそう言う。
……な、何よ。馬鹿なんだから。
「無事じゃないわよ。なんとかしてよこのおかしい人」
三年から手を離され、唯が私の元へ駆け寄ってくる。私は彼女の
手をそっと離すと、ゆっくり坂口先輩に近づく。彼女の
スカートのポケットからストラップを引いて、携帯を擦り取った。
「翔大、これ見て! ネットピタ宛ての写メの中!」
坂口先輩の制止を振り切り翔大の手に投げる。翔大はすばやく探す。
そして……画像を見て、今まで見たこともない怖い顔になった。
「坂口先輩、いや、坂口艶子さん。俺は今まで我慢してきた。けれど……
限界だ。警察に行かせてもらう。裕美、尾上、来い。お前らも被害者だ」
「ちょっ……止めてよ!」
坂口先輩はすがりつこうとする。翔大はそれを振り切った。
他の三年は何も言わなかった。


「部室に寄ってくれ。荷物取ってくるから」
話を聞けば、翔大は三年に囲まれてる私たちを見たと武蔵小路さんに
聞いて部室から駆けつけて来たらしい。武蔵小路さんに感謝しないと。
「警察の前に先生に相談しなくて良いの!?」
「教師なんて保身に走るだけだ。直接警察に行った方が話が早い」
部室の前で携帯が鳴った。1つは洋楽、1つは基本の着信音。
翔大と唯の携帯だ。二人はほぼ同時に出た。
------そして、同じ言葉を発した。
「弘道おじさんが亡くなった!?」
翔大が唯を振り返る。唯はしまったと言いたげに口元を押さえた。
そしてゆっくりと……悲しげな表情になると、私を見た。
「うん、うん……すぐ帰る。じゃあ」
通話を切る。翔大が何か言うより先に、唯が口火を切った。
「騙していてごめんなさい、裕美。中多君」
ぺこりと頭を下げた。
「------中多君の婚約者は、私なの」

なんだって?