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最後の魔法使い 第二章 『学者さん』

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 住宅街からずいぶん離れたところまで来ると、ディディーは小さな家の前で止まった。
「着いたぞ。」
それは、アレンが見たことがないくらい、小さくてみすぼらしい家だった。ロウア―ウェストの一番貧しい一家でさえ、この家よりは―家というよりは掘立小屋に近かった―ひと回りは大きかった。とても家族で住めるような大きさではなさかった。明かりのともった小さい窓が二つほど、南むきの壁についていた。入口にはベルも表札もなく、ただ古ぼけたドアがたたずんでいた。そんな建物だったので、端におかれている花壇の手入れがよくされているのが不思議だった。それだけ心に余裕があるということなんだろうか、とアレンは考えた。
「ジュダさん、いるかい?俺だよ、ディディーだ。あんたに会わせたいやつがいるんだ。」ディディーはどんどんと大きな音を立ててドアをたたいた。
アレンは「ジュダ」と聞いて驚いた。『もしかして…』
ギィと音を立ててドアが開くと、無精ひげを生やした、やせこけた中年男性が中から現れた。細長い体に着ているズボンと、薄汚れた緑のシャツはよれよれで、かけている眼鏡はふちが曲がっていた。ディディーが「よぉ、ジュダさん」と言ったので、この人がジュダ・ジアーズなのは間違いないだろう、とアレンは思った。一方で、アレンはその風貌にひたすら驚いていた。その姿は、古臭いマントをはおったディディーやアレンより、ある意味もっと浮浪者のようだった。そんなに裕福ではなかったアレンの実家だが、マチルダはいつもシャツのしわはしっかりのばしていたし、少しでも曲がったり壊れたりするようであればすぐに街の工場で直してもらっていた。だから、こんな汚らしくてみすぼらしい人が母と血がつながっているなんて思えなかった。
「やぁディディー。今日はどうだった?」ジュダは、笑顔でディディーの肩をポンポンとたたいた。笑うとやせ細った顔にえくぼができた。「よく来たな。今日は冷えるから、泊りに来ないかと言いに行くつもりだったんだ。」
「そうかい、そうかい。でも、街の方はそんなに冷えちゃいねぇよ。」ディディーはうれしそうににんまりと笑った。「でもまぁ、ありがとさん。ここはやっぱり冷えるな。ジュダさん、リカー(この国での温かい飲み物)はあるかい?」
「ストーブの上に少しあるよ。」ジュダは家の中を指差した。ディディーは揚々と中へはいって行ったが、アレンはどうしていいのか分からず、玄関の前で突っ立っていた。ジュダは、少しの間、珍しいものを見つけたように、アレンをじろじろと見た。
「あ、あの…」
アレンが言いかけたところで、ジュダは、何もかもわかっている、とでも言うように、ふっとほほ笑んだ。
「とりあえず君も入りなさい。」とジュダが言った。アレンはおとなしく従うことにした。