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Life and Death【そのろく】

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「……ぅ」
 ――暮宮霞は絶句した。
 いつものように霞はどこかの部屋で食事でも頂こうかと、比較的可能性の高い双子の部屋に潜り込んだのだ。
 ――しかし、その部屋は魔窟であった。
 ゴミ袋が、片手では足りない程度。饐えた臭いと独特のほの暗さ。数日前まで整理整頓されているとは言えずとも、それでも人の生活する場だと認識させてくれていた部屋ではなかった。
 最早巣窟。この部屋の奥には、何かとてつもない『魔』が存在しているのではないかと錯覚するほどの、それはそう、『瘴気』を感じられた。
 勇気を搾り出してその部屋に一歩足を踏み入れた。
 ――いや、それは勇気ではない。無謀に近い何かだ。恐怖心と好奇心が綯い交ぜになって警戒心に彩られた何かに、霞は突き動かされたのだ。
 果たして、その巣窟の奥に棲む魔は何であったのか。なんのことはない。二〇四号室の双子、伊皆姉妹であった。
 部屋には大量の空き缶と空き瓶が転がっている。外側から順にコーヒーの空き缶、栄養剤の空き瓶、カフェイン剤の空き瓶、何が入っていたのか分からない瓶と、明らかに身体に悪そうな成分の含有量が増えていっている。
「……」
「……」
 双子は二人して、パソコンを前に、黙々とペンを動かしていた。
 霞の肩に手を置く者がいた。紅夢野であった。夢野は無言で、「ほっといてやれ」と手遅れの患者を見送る医者のような表情で首を振る。
 あ、ああ、ああっ! なるほど、これが噂に聞く修羅場というものか。一瞬にして理解した霞は、静かに部屋を出て、戸を閉めた。
 果たしてその命を削るような苦行が花を開いたかは定かではないが、これが既に徹夜四日目だということを知らされた時、あの双子が本当に人間じゃないのかと思ったとか思わないとか。
 霞は夢野に連れられ談話室に移動する。
 談話室には既に八咫がいた。八咫は一枚のタロットをテーブルの上に置いていた。
 大アルカナ一番、『魔術師』のタロット。
「あのカルト、どうなるんだろうねぇ」
 夢野は台所に立つと、冷凍庫から冷凍の鍋焼きうどんを取り出す。それをカセットコンロに掛けると、八咫にそう問い掛けた。
「未来を表すアルカナは『塔』であったとだけ言っておきます」
「元ネタはバベルの塔だっけか。そりゃ良い結果は待ってないだろうね」
 冷凍鍋焼きうどんが沸き立つ。良い塩梅に火が通った辺りで、夢野はその鍋焼きうどんを霞の目の前に置く。
「それより気になるのが、このカードですね」
 そう言って、八咫は『魔術師』を指差す。
「あの時客人は三人いました。そのうち一人は『魔術師』のアルカナに相応しい客人であったとは言えます。ただ、小笠原様と志手野様に関しては謎が残る結果となりました。私の鑑定では、恐らく小笠原様は『好奇心』か『無計画』、志手野様は『フロンティア精神』、『遊び人』という結果を占いました」
「小笠原さんに関してはそれで合ってると思う。好奇心といえばその通りだし、まだ若いから計画性も中々……」
「でしたら、小笠原様に関してはそれで話は付いたということになりますかね。問題は、志手野様でしょうか」
 志手野ミカゲ。双子と知り合いであり、双子の過去を知っている数少ない人間。その過去、人間性、生活習慣に至るまで一切を住民たちは知らない。
「結果だけは覚えておきましょう。考察は、もう少し後といったところでしょうか」
 そう言って、八咫はデッキを抱える。
 すると、するりと一枚だけタロットが零れ落ち、『魔術師』の上に重なる。
 ――零れ落ちたタロットは第十三番、『死神』のカードだった。