Life and Death【そのろく】
一触即発。少しでも動くと首を掻っ切ると言わんばかりの靈鷲明里。そして人質になっている小笠原静香。事の成り行きを見守る八咫と、相変わらず様子のおかしな霞、双子はどうすればいいのか困った顔をしているし、ミカゲはもう自分の仕事は終わったと言わんばかりにお茶を啜っている。
静寂の中、部屋に『ぱきり』、という建物が軋む音が響く。
「全く持って、解せぬ話じゃ……」
そう言って、霞は立ち上がる。
「ちょっと、あんた。何動いて……」
「麻呂を怒らせるとは、お主、オイタが過ぎるぞよ? ただでさえ麻呂たちを冒涜するような所業に加え、ここでこのような暴挙に出るとは……少しばかり仕置きをせぬばならぬかのぅ?」
ぱきりぱきりと家鳴りが増えていく。気がつけばあちらこちらでひっきりなしに音が響いてくる。
「一体、どういうっ!」
「やい偽者。先ほど、お主に問い質したな。麻呂を見てどう思うかと。ここに来て何も感じぬとは……やはり偽者は偽者じゃの」
ぱきり、ぱきりぱきりぱきりぱきりぱきりぱきりぱきり……っ!
「んぁ、なぁっ! く、来るなぁっ! 来るんじゃねぇっ!」
途端に、靈鷲明里は空を手当たり次第切り刻み始める。一体彼女に何が起こったのかは分からないが好機だ。夢野は太ももに下げている鞭を手に取ると、集中する。
狙いを外せば静香に当たる。だが、首元に近づけられているより幾分も狙いやすい。振り回しているものの、大振りだ。動きは読みやすい。
――一瞬の集中。そして、鞭を振るう。
果たして、鞭はナイフを叩き落とす。ナイフを叩き落とされてしまった靈鷲は、終ぞ錯乱しながらその場を逃げ出す。
――めぞん跡地にに静寂が訪れる。
その静寂を割るように、志手野ミカゲは腰を上げた。
「それじゃ、私はそろそろお暇するわ。元気そうで何より何より。じゃあねっ!」
「ちょ、あんたっ!」
「そのうちまた来るわ。それじゃあ、それまで御機嫌よう」
そう言って、ミカゲは風のようにめぞん跡地を後にした。
……どうしてくれんだこの空気っ! 引っ掻き回すだけ回して逃げるようにめぞん跡地から抜け出したミカゲを夢野は恨む。
どうしよう、どう接すればいいんだ? こんな状況、私には荷が重い。
そうして思考の迷宮に迷い込んでいた時、ピリリと携帯が鳴る。
携帯の持ち主は小笠原静香だ。静香は抜けた腰で床を這い、携帯への元へとにじり寄る。
「え……あ……はい。はい、そういうことですか。了解です」
そして、携帯を切ると、小笠原静香は双子と向き合う。
「お取り込み中悪いのですが、業務連絡です。〆切が前倒しと成りました」
「え、あ、ちょ、それってどういう……」
「軽く見積もって六日の前倒しです。それから更に三日のおまけが付くかもしれません。ぶっちゃけ今からやらないと間に合いません」
首を刺されたり折られたりしても倒れることがなかった伊皆姉妹であるが、その一言を聞いた途端、青い顔をしてぶっ倒れてしまった。
作品名:Life and Death【そのろく】 作家名:最中の中