Life and Death【そのろく】
「おっと、いや、なんでもないのじゃ……ないんだよ」
なんかおかしい。おかしいが、彼が変なのは前からそうだ。夢野はそう納得する。
「そち……じゃなかった。ミカゲとやらはいい、か。そっちのお姉ちゃん。靈鷲と言ったかの。麻呂、じゃなくて僕を見てどう思う?」
「可愛い子だなぁ、と」
「確かに霞は可愛らしい童子じゃが……ではなく。そういうことかの、あい分かった。お主はあの姉妹には世話になったと言ったが、どういうことかの……なの?」
「少し前に旅先で困っている時にお世話に……」
「……欺瞞じゃの」
霞は小さな声で呟いた。途端、ぱきりと、建物が軋む音がする。
「ミカゲ……お姉ちゃん。お姉ちゃんであるなら、ことの真相が読めているじゃろ?」
「ん、まあ。大体の話は飲み込んだよ。いやぁあんた、怖いお人だね」
そう、ミカゲは霞に対して言う。
「さて、さて。ネクロマンシーっていうのを知ってるかな?」
ミカゲは霞に促され、そう切り出した。
「ネクロマンシー、ネクロマンサー。まあ言い方はどうでもいいか。この国で言う霊媒師とか、あとはイタコのことをそう呼ぶのさ。
私ぁね、そういうのを専門に研究しているわけね。まあ、半ば趣味みたいなものさ。
これがまた面白くてねぇ、色んな国に言ったけれど、このネクロマンサーってのは大体同じ仕事をするのさ。なんだと思う?」
その問いに、夢野は答える。
「えーっと、ゾンビを作ること?」
「それはブードゥー教だねぇ。まあ、大体合ってたり大体外れてたり。ネクロマンサーは言った通り、大体はイタコみたいな仕事をしているのさ。口寄せって言って、一般的にこれを何というか。――交霊だよ」
交霊。夢野はその言葉を最近聞いた覚えがした。
いや、確実に聞いた。そして、談話室の端に捨て置かれている雑誌を手に取る。
都市伝説決選。特集、白き黄泉坂小会。
「なるほど、そういうことですか」
八咫は得心がいったらしく、デッキのトップを捲る。さっき混ぜた『魔術師』がそこにあった。
「さて、さて。このイタコって言うのはとにかく偽者が多い。そりゃぁ、普段は見えないモノを扱うのだから、偽者も仕事がやりやすいんだ。
――私ぁ全部知っているぜ。お前さんの目的も。最近噂になっているからなぁ……『本物』が欲しいんだろ?」
靈鷲は、ミカゲを睨みつける。
「え、どういうことなの?」
静香は思わず口を開く。状況の変化に取り残されてしまったのか、一人だけオロオロしていた。
「うん、役者が揃ったな」
その足音を耳にする。足音は二つ、ぎしぎしと板張りの廊下を歩いてこちらに向かう。
「ただいまー」
「……なのです」
双子、伊皆姉妹の帰宅である。
作品名:Life and Death【そのろく】 作家名:最中の中