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Life and Death【そのろく】

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 何だ、このペテンは……。そう、佐佐木原金太郎は思った。
 入信者に成りすまして『白き黄泉坂小会』とやらに潜り込んでみたが、とんだペテン集団であった。
 例えばポルターガイストは磁器を利用したごく初期的なトリックであったし、父親と対面したという記者はこのカルトの関係者だった。悪霊なんてでまかせもいいところ。しかも仕舞いには薬物とトリックとサクラを利用したニセモノが交霊の正体と来た。おかげで腕時計は磁気にやられてしまったし、香に含まれている薬物のおかげで頭が痛い。
 しかも目当ての死せる生者の腕とやらはどうやらニセモノ。ただの人間の腕がその正体であった。本物は切り落とされて時間が経っても瑞々しい筈だが、『白き黄泉坂小会』が手に入れたものはミイラ化していた。
 彼ら曰く、あの腕は仮初の姿。あの腕が元の姿を取り戻す時、その時こそが力が蘇る時だと言っていたが、妄信もいいところである。奇術師ハリー・フーディーニもこんな気持ちだったのか、と佐佐木原は嘆く。
 ただ、面白いのが世界のあらゆる宗教の死生観を元に独自の進化を遂げた信仰を行っていることだ。
 善き魂は善き魂の集まる場所へ、悪しき魂は悪しき魂の集まる場所へとそれぞれ向かう。これはカトリックからプロテスタント、仏教に伝えられる教えでいわゆる『魂の選別』である。
 そして選別された魂はやがて大きな祖霊、グレートスピリッツとなる。これは神教やシャーマニズムに見られる『祖霊信仰』である。
 そして、グレートスピリッツから再び魂が生まれ、下界に下りて受胎するという魂の循環、仏教やヒンドゥー教などで教えられるいわゆる『輪廻』である。
 それら各国の死後の世界を取り入れられて形作られた彼らの宗教は、独特の世界観を伴っている。彼ら『白き黄泉坂小会』ではこう教えられている。
 ――死した魂は白き世界に導かれる。白き世界ではまず魂の選別が行われる。選別を行うの何らかの意思を彼らは『多いなる者』と呼ぶ。善きことを成した魂は安らかなる安寧の世界へ、悪しきことを成した魂は怨嗟渦巻く恐怖の世界へと導かれる。善きグレートスピリッツでは善き行いを労われ、悪しきグレートスピリッツでは悪しき行いの断罪が行われる。それらの中で魂はやがて無色透明の無垢な魂となり、再び万物へと宿るという。
 彼ら『白き黄泉坂小会』は、それらグレートスピリッツより魂を口寄せし、教えを請うことを信仰としている。ここで重要なのは、彼らが信仰しているのはそれらグレートスピリッツであり、魂の選別を行う『大いなる者』ではないことだ。大いなる者には思想がなく、ただ善きと悪しきを選別するという意思しか存在しないと言う。だから、いくら大いなる者に祈っても善きグレートスピリッツに迎え入れられるというわけではないというのが理由だという。
 さて、ここで白き世界に行くことができなかった魂も存在するというのが彼らの教えだ。何でも、現世に何らかの強い思いがあると白き世界にいけないのだとか。そのような魂を白き世界へと送り届けるのもまた、彼らにとっての正しい行いであるとかなんとか。
 なるほど、ここだけ聞くと真っ当な新興宗教である。少々神話体系を弄り過ぎてオカルト小説の設定のようにもなってしまっているが、まあそこはいいだろう。問題は、幹部連中の行いが少なくとも『善きグレートスピリッツ』とやらに迎え入れられる類のものでないことだろう。まあ、こればかりは自分が解決することでもないと、佐佐木原は考える。
 ただ、気になるのがナキガミという単語だ。
 曰く、生ける死者だの。曰く、死せる生者だの。グレートスピリッツの化身だの、魂の物質化だの。思うにゾンビのようなモノではないか、とは佐佐木原はアタリをつけるものの、釈然としないものである。
 教祖には会えなかったものの、とりあえずはこの団体が本物ではないと確信した佐佐木原は、「怖くなった」等と理由を付けて会場を後にする。
 ――とりあえずは、触らぬが吉か。そうケジメを付け、佐佐木原はめぞん跡地へと足を向けるのであった。

 大アルカナ、一番、魔術師。この魔術師には以下の意味がある。
 正位置――技術、話術のある、ひらめき、フロンティア精神、好奇心、スタート等など。
 逆位置――口先だけ、技術なし、悪知恵、遊び人、無計画、そして詐欺師等など。
 占札の占いは当たる。しかし、今回はそれが何を意味するかは分からないところであった。
 ――いや、兆候も複線もあった。ミクロな視点で見ればそれ一つ一つは意味不明な要素に過ぎないが、マクロな視点を持って見ればそれは一目瞭然である。彼らは知らぬが故にその結果に翻弄されたが、その占いの結果だけは、真実を物語っていた。自らの占いの結果を絶対のモノであると知っている八咫占札はその結果受け止める。だが、その意味だけは彼の知る情報だけでは推察することはできない。
 占いとは、観察力が長けていることが絶対条件だ。彼の占いはその観察力とその状態を表すタロットを引き寄せるという、二つの能力で絶対の結果を弾き出すのだが、彼が予知しない情報に関してはこの限りではない。
 ――それが故に、彼の占いは絶対なのだ。何故ならば、知らない筈の情報を彼はタロットから得ることができているのだ。ただ、その情報はが何を表しているのかが彼には分からないだけである。
 さて、魔術師のカード。これは一体何を表すのかと彼は思索を始める。魔術師のカードが持つ情報は正逆合わせて前述の通り。広げたタロットの中から衝動に駆られ、無造作に拾ってしまったが為に、正逆は分からない。いや、もしかしたら『正逆が必要のなかった』のかもしれない。
 まずは、バックパッカーの少女、志手野ミカゲ。彼女を表すのなら、『フロンティア精神』であろうか。未知の領域に踏み込もうとするその精神性、バックパッカーという生い立ちから考えるにそれが適当だろう。もしかしたら『遊び人』を表しているのかもしれないが。
 次に、小笠原静香。彼女の場合は『好奇心』が適当だろうか。もしかしたら、彼女の中に一つの好奇心があったのかもしれない。無論、得体の知れないバックパッカーを招き入れるという『無計画』性を暗示しているのかもしれないが。
 最後に、靈鷲明里であるが、彼女の場合はその魔術師のカードが何を示しているのかが不明確だ。というのも靈鷲明里がどんな人間なのか分からないからだ。
 それにしても、珍しい名前だ。こんな名前の人間、八咫は会ったことがなかった。
 ふと、八咫はタロットに眼を落とす。魔術師、逆位置の暗示に、『詐欺師』があった。
 ――いや、まさか。まだ情報が少なすぎる。不用意なことを言う必要はない。
 八咫はとりあえず考えるのを止める。『魔術師』を山札に戻すと、再びシャッフルを行い始める。
「……」
「ん、どうしたの? 眠いの?」
 静香が暮宮霞に声を掛ける。見ると、霞は頭を垂れて、膝元を眺めていた。
「ん? あんた、そんな髪飾りつけてたっけ?」
 夢野はその髪飾りを指差す。いつもは緑色の髪飾りを付けているが、その時、髪飾りは紫色であった。
「――解せぬ」
「へ?」
 いつもは彼がしないような言葉遣いだ。