さ・く・ら
私が【見えるようになる】日が、学校の春休みにと重なる年が多い。でも、2月から3月初旬に寒い天候が続いたせいで、今年は大勢の子ども達を見ることができた。
そして、子ども達が休みの日曜日。小さな女の子の手を引いて男がゆっくりと歩いてくるのが【見えた】。女の子の方が気持ちが先に立っているのだろう。父親を引っ張っているようにも見える。おそらく二歳くらいの女の子だ。
「さくら、桜咲いてるよ」
「しゃくら咲いてるね」
私は、ああ、あの子だと分かった。さくらという名前の小さな女の子。しかしお母さんがいない。どうしたのだろう。父親の顔に精彩が感じられない。私は、もしかしてと暗い気持ちになった。
「きれいだねえ」大人っぽい言いかたで女の子は言って私を見上げる。
「うん、きれいだね」父親は風呂敷包みをほどいて、とりだした写真を私にかざした。